乙女、青春を腐心せよ(腐女子連載 長編) 3 side宍戸 最初に苗字名前に出会った時はお互いかなり印象が悪かった。 初めて出会ったのは跡部が部室に連れてきた時。女にいい印象を持っていない俺はここに女がいることを不快に思った。 見てみると確かに容姿は可愛らしかった。フランス人形のような精巧な顔立ちに華奢そうな身体、更には服の上からでも巨乳であることがうかがえた。 まあどうせ顔なんか厚化粧でどうにかしているんだろうと経験上思った。 (後に聞いた話だが今まで化粧をしたことはほぼ無いそうだ。化粧品買うお金があれば課金するでござると言われた時には奴は本当に女なのか疑った。) 跡部と何やら言い争っている女に、早く帰れとばかりに文句をつけると、顔を青くして逃げようとした。 やっぱりなと思って見ているとどうやら忍足が仕掛けたようだ。 忍足はああやって女の反応を見て判断することがある。大体の女はそれでやられる。 しかし女は忍足に足を触られてブチ切れたのか忍足の股間を蹴り上げて頭を抱えて叫び出した。 誰もそんな行動に出ると思わなかったのであろう。皆がぽかんと見つめる中滝がクスリと笑いながら出ていった。 滝によってなだめられた女はここで弁当を食べることになったようだ。 忍足に弁当を落とされたことが余程腹立たしかったのか、弁当を拾い上げる際もう一度忍足の背中を蹴っていた。(喘ぎ声のような声を出した忍足は純粋に気持ち悪かった。) 女が滝に用意された椅子に座り弁当を食べていると前の席で寝ていたジローが起きた。 ジローは女に弁当を強請っているようだ。ジローに強請られて物を与えなかった女はいない。しかし女は一瞥しただけで与える気配はない。すると痺れを切らしたジローが女の卵焼きを奪っていった。女は文句を言いたげだったが言っても聞かないと判断したのか何も言わずに食べ続けた。更に岳人も弁当の奪い合いに参加したらしく、ジローと2人で女の弁当を平らげてしまった。 ほとんど弁当を食べられなかった女が撃沈していると、樺地が女にパンを差し出した。 「これ、食べてください…。」 「え?何で?」 「跡部さんたちが…迷惑をかけたので…。」 「いや、これを貰っちゃったら君のがなくなっちゃわない?」 この女はそれなりの気遣いはできるらしい。 樺地が机に置いてあるパンを指差すと、それに安心したのか女はパンを受け取って樺地の手をがっちりと握りしめた。 「ありがとう!いや、君はいい人だったんだね!最初は悪の権化の手下だと思ってたけど、本当はフェアリー属性だったんだね!私は2-Bの姫城アナ。よろしくね!」 「樺地崇弘…1-A…です。」 「フェアリー樺地くん。この悪の巣窟の中で君は聖なる光だよ!頑張ってその清らかさを保ってね!」 「ウ、ウス。」 ここまで女に褒め称えられたことがないであろう樺地は困惑気味に返事をして戻っていった。っていうか聖なる光ってなんだ。 お腹が減っていたであろう女は樺地に貰ったメロンパンと滝に貰ったカフェオレを嬉しそうに食べている。 すると滝が女に尋ねた。 「ねえ苗字さん。あの人のこと知ってる?」 「え?ああ、はい。隣の席の人です。」 「そうじゃなくて名前とか、何をしてるかとか。」 「そこまでは知りません。よく考えたら名前教えて貰ってませんし。私は悪の権化と呼んでいます。 滝さんも気をつけた方がいいですよ。あの人自分のこと俺様とか言うんですよ。厨二病がまだ治ってないんでしょうね。滝さん優しいからあれと一緒にいてあげてるのかも知れませんけどあれはヤバいですよ。」 マジかこいつ。まさか跡部のことを知らないどころか厨二病扱いする女がいるとは…。しかも呼び名が悪の権化って…! 「っぶは!クソクソ跡部!厨二病扱いされてやんの!あっははははは!」 岳人が吹き出したのを皮切りに我慢出来ずに全員笑い出す。 「跡部厨二病だったの?知らなかったCー!」 「そうだったんですか跡部さん。そんなこと言ってるとすぐ俺に下克上されますよ。」 「跡部お前っ、そんなふうに言われてんの初めて見たぜ!激ダサだな!あっははは!」 女は何で笑われているかわからないのかムスッとして跡部に視線を向ける。 すると跡部はニヤリと至極楽しそうに笑った。 これは何か楽しんでいる時の顔だ。 「ハーハッハッハ!女にそんなこと言われたのは初めてだ!気に入った!跡部景吾だ。いいぜ、俺様の女にしてやる。」 「いやだから結構です。」 「あーん?俺様のどこが気に食わないんだ?」 「全体的にですね。」 周囲はさらに大爆笑。 あの跡部がコテンパンに言われているのが面白くてたまらない。 するといつの間にか復活した忍足が女に尋ねた。 「お嬢ちゃん、跡部のことかっこいいとも思わないん?」 「いや、まあ顔は整ってるんでしょうけどね。大体あの人のことよく知らないんでなんとも言えないですね。」 「付き合いたいとかも思わへんの?イケメンの彼氏なんて自慢出来るで?」 「自分の恋愛とか死ぬほど興味ないです。それにイケメンとかの話ならはっきり言ってタイプじゃないです。」 こいつ本当に女か?普通女子は恋愛とかそういうのが大好きな生き物だろう。こいつのことがよくわかんなくなって見ていると忍足も気になったのか話しかけていた。 「ほぉ。なら名前ちゃんのタイプってどんなん?」 なんかあいつサラッと名前呼びしてるな。 しかし女は面倒になったのかなあ、名前ちゃんー?と話し掛ける忍足を無視してスマホを開き出した。 何やら操作をしつつ諦めない忍足ををうるさいと一蹴する。 あ、忍足が落ち込んだ。面白い。 女のスマホから音楽が流れ出す。 指を構えているところを見るとリズムゲームでも始めるようだ。 すると女はとてつもない勢いでスマホを叩きだす。 ジローや岳人と一緒になって女のスマホを覗き込む。 ちょっ、これどんだけ難易度高いのやってるんだ?アイコンを確認するのが精一杯で最早女の指の動きなんか見えない。 フルコンボを叩き出した女が一息つく。 するとジロー達が一斉に騒ぎ出したのについ便乗してしまった。 「マジマジスッゲー!今のどうやってたの?指見えなかったCー!」 「お前すげーな!俺もクラスの奴がやってんの見たことあるけどそんなじゃなかったぜ!」 「ああ!指どころかアイコンを確認するだけでも精一杯だ!」 先程まで睨んでいた俺がいるのを怪訝に思ったのか女がじとりとこちらを見てきた。 「あ、いや、さっきは悪かった。ミーハーな女子かなんかだと思ったからさ…。」 「いや別にいいけど。女の子皆そうだと思ってるのは良くないんじゃないの?」 「分かってるんだけどね、仕方ないんだよ。自分で言うのも何だけど俺たちテニス部は女子に好意を持たれやすくてね。色々あったんだよ。」 正論を言う彼女に滝が弁護をしてくれた。 「ああ。練習の邪魔されたりストーカー紛いのことされたり迫ってきたり色々すごくてな。いつの間にか女不信になっちまってた…。ほんとにすまなかった。」 「へー。イケメンも大変なんですね。異性にモテた経験のない私にはわからない苦労ですよ。」 「へ?お前だってあるだろ、その容姿じゃ。」 「残念ながらないですね。まあ、前の学校は女子校でしたし。 別にいいですよ、ご機嫌取ろうとしなくても。もう怒ってませんから。」 「あ、いや、そんなことはないんだが…。」 この女はちょっと変だが紛うことなき美少女だ。それなりにモテてきただろうと思って言ったのだが、ご機嫌取りだと思われたようだ。 「で?私は姫城ですけど、貴方はいったいどちらさんで?」 ここでようやく自己紹介をしていなかったことを思い出した。 「ああ、すまねぇ。名乗ってなかったな。俺は宍戸亮、2-Gだ。よかったら姫城、友達になっちゃくれねぇか?お前面白いしその辺のミーハー女と違うから仲良くできそうだ。」 こいつは他の女のようなミーハー臭がしない。むしろさっぱりとした性格の良い奴に思える。今まで女友達なんていなかったが、こいつとならいい友達になれる気がする。 「いいけど、私の友達やるの結構大変だと思うよ?いいの?」 大変というのはよく分からないがいいと言ってくれているということは友達になってくれるのだろう。 「!ああ!もちろんだ!」 俺が勢い良く返事をすると彼女は嬉しそうに笑顔を向けてきた。 「よーし、今日から私達は友達だ!私のことは名前と呼べ!あっははは!氷帝に来てからの初めての友達!ほら、亮!私の胸に飛び込んできなさい!」 そう言うと彼女は笑いながら腕を広げてこちらに迫って来た。 確かに女にはモテるが経験なんかほとんどない俺は恥ずかしくなって逃げた。顔が赤くなっているのがわかる。 おいおい、そんなんで赤くなるなよ。このおにぎりシャイボーイめ!それじゃあ女子校のノリにはついていけないぞー! と言って彼女は俺を追いかけてくる。 なんだよ、おにぎりシャイボーイって。 そんな俺たちを見てジローと岳人も追いかけっこに参加してくる。 「名前ちゃーん、俺芥川慈郎ー!ジローって呼んで!俺とも友達になろうよー!」 「クソクソ!宍戸ばっかずりーぞ!俺は向日岳人!俺とも友達になってミソ!」 「あなや!友達が一気に3人に。いやー嬉しいなあ!よぉし!ジローちゃんとがっきゅんも抱きしめてやろう…!」 そう言って奴らは3人で抱きしめあう。滝も笑いながら俺も友達にどう?と言ってそこに参加している。(名前が抱きしめようとしたところをサラリと抱きしめ返していた。すげー。)樺地の友達勧誘にも成功したらしく照れる樺地を遠慮なく抱きしめていた。 忍足も友達になろうとしていたが無視されていた。少し可哀想だが自業自得だろう。(結局岳人に言われて友達になったらしいが。) そうしているとチャイムがなったのが聞こえた。 あ、やべぇ、授業…。 まあ、跡部がどうにかしてくれるだろうと皆でサボることになった。 その日の部活は調子がよかった。 それに気がついた長太郎に何かあったのかと聞かれてしまった。 ああ、昼間いなかった長太郎はあの騒ぎを知らなかったのか。 長太郎もあからさまではないが女が苦手だし、俺がそうだということも知っている。 俺に女友達ができたと知ったら嘸驚くだろう。名前のことを話すと物凄く驚いていた。驚き過ぎてボールで転びかけた長太郎に笑ってしまった。 翌日の部活でと名前友達になったと報告された。 ちょっとモヤモヤしたのは気の所為ということにしておく。 [*前へ][次へ#] |