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乙女、青春を腐心せよ(腐女子連載 長編)
2
さて、今日からは通常授業である。
つまりお弁当が必要だ。

昨日より30分早く起きるのは中々辛い。
料理は推しキャラの好物などを作るうちに得意になったため苦ではないが、昨夜もzenzaiさんとゲームをしていて1時に寝た為に眠たい。欠伸をしながら卵焼きを焼く。

姉の分と合わせて二人分のお弁当を詰め終わったところで息を吐く。
ふはははは!完成したぞ!
今日のお弁当のテーマは
“兼さんのかっこ良くて強い!最近流行りのお弁当〜一つ、士道に背くまじきこと〜”だ。

力作を包んでカバンに入れてから起きてきた姉と一緒に朝食を取る。
食べ終わったところで時間になり、洗い物を姉に任せて家を出る。
耳に入れたイヤホンからは出会いの歌が流れていた。



現在時刻12:20。4時間目の古典があと15分で終わる。私は今非常に困惑している。何故か視線を感じているのである。主に隣の席から。朝からずっと見られているとは思ったが無視していた。一体なんなんだこれは…。
とうとう我慢出来なくなってちらりと隣を見る。するとこちらをガン見していた隣人と目が合う。するとどうだろうか、奴は自信満々といった顔でこちらに笑いかけてきたのである。ばっと顔を窓の方に逸らす。
な・ん・な・ん・だ・よ!!!
早く解放してくれ〜と思っているとチャイムがなる。よし、逃げよう。
そう決めてお弁当を掴んだ手を隣からガッと掴まれた。
驚いて見ると掴んだのはやはり隣の奴であった。

「あの、離してくれませ「俺様と来い」」

遮ったぞこいつ。

「いや、私これからお弁当食べに「行くぞ」ちょっ待って…っ」

そう言うと奴は私の腕を掴んだまま歩き出した。
そんなわけに行くか…!
暴れて抵抗していると舌打ちをしておい、樺地!と呼んだ。

「ウス」

「そいつを連れてこい!場所はいつものところだ」

「ウス」

「!?ちょっ、何?え?はぁ?」

背後から現れた隣人の手下によって担ぎ上げられた私はどこかへ運ばれている。バタバタと暴れてみるもビクともしない。お弁当も手下の手にあるため下手な真似はできない。

ようやく降ろされた頃には私はぐったりとしていた。
暴れ疲れたのもあるが、なんといっても視線の暴力がひどかった。
それはそうだ。こんなことをしていれば目立つ。

座るよう促された椅子にふらふらと座る。
目の前にお弁当が置かれたのを確認するため視線をあげた。

…まあ、なんということでしょう。
目の前を男の子達に囲まれているではありませんか。
しかもなんだここ?どこぞの部屋か?
横にロッカーが見えることからどこかの部室にも見える。(それにしては豪華すぎるが…)
周りを見ると男の子たちはそれぞれ昼食をとっているようだ。
この状況に呆然としていると元凶が隣の席に座った。
口を開く気になれない私が説明しろよという視線を向けるとようやく奴は口を開いた。

「状況がよく分かってねぇようだな、あーん?」

そらな。

「ふん。お前にはテニス部のマネージャーをやらせてやるよ。嬉しいだろう?」

「え。何で。」

え、なんで唐突にテニス部のマネージャー?第一私そんなものになりたいなんて言った覚えはないぞ。

「はんっ。とぼけるなよ。俺達に近づきたくて転校してきたんだろ?お前のことはまあまあ気に入ったからな。特別だ。」

「いやいやいや、なりたくないです。」

「活動は今日の放課後からだ。しっかり働け。」

「だから、やらないって!」

会話してよ。言葉のキャッチボールしてよ、頼むから。
会話とも呼べない会話にイライラしてきた。
あと昼食食べさせろよ。時間なくなるだろうが。
そう思っていると帽子を被った男の子が口を開いた。

「はっ。どうせミーハーの女だろ。どうやって跡部に取り入ったか知らねーが、俺は騙されねぇからな!」

勘弁してくれよ!なんだその台詞!
もしかしてこいつらは厨二病仲間なのか?
え、ここにいるやつ全員厨二病?
その中に入ってる私ももしかしたら厨二病だと思われ…!?
さっと血の気が引く。
転校2日で厨二病のレッテルを貼られたら私は一気に変人扱いだ。
1秒でも早くこの空間から逃げ出さなくては。
ガタリと椅子から立ち上がると出口に向かって走…ろうとしたのだがくるりと回った瞬間、いつの間にか背後に立っていた人とぶつかった。
邪魔なヤツめ。首落ちて死ね!と思って睨みつけると立っていたのはなんとも言えない丸眼鏡の男だった。
そいつは私のお弁当を持って立ち塞がっている。お弁当を人質に取られている私は手も足も出せずにその場で睨みつける。
と奴はなんとも胡散臭い笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。

「お嬢ちゃん、跡部を満足させたんやからよっぽどの名器なんやろなぁ。どれ、俺とも一発ヤってみんか?」

と言って私の足を撫でてきた。

「いや、マジでやめてください!訴えますよ!?」

「ほーぉ、ツンデレかいな。そういうキャラ演じるんも大変やなぁ。」

足綺麗やなぁと言ってスカートの中に手を入れてきた。
これには流石にブチ切れた。

「っこの野郎!やめろっつってんだろ!?」

そう叫んで奴の股間を蹴り上げた。

「っ!〜…!!!」

床に転がって悶絶する奴を見下ろして怒鳴りつける。

「厨二病もいい加減にしろよ!?大体、なんで強制連行されたこっちが責め立てられるわけ!?あんた達に近づく気とかねーよ!むしろ関わりたくないわ!馴れ合うつもりはない!マネージャーってのもお断りだわ!てか最初からたのんでねーよ!ああもうなんなんだこの状況!誰か1から説明してくれようわああああ!!!!」

頭を抱えて叫ぶ私を周囲はぽかんと見つめる。そんな中1人の男の子がクスリと笑いながらこちらに来た。

「あはは、やるねー君。気に入ったよ。俺は滝萩之介。よかったらこっち座って。」

「いや、私帰…」

「早くお昼食べないと休み時間終わっちゃうよ?今からほかの場所に行く時間もないしね。それに俺君と話してみたいしさ。」

「え、いや、あ、はい。そうですね。」

拒否権なかったぞ今。
本当はここから出ていきたいのだが、こう言われてしまっては出ていき難いし、今から場所を探してもいい場所なんか見つけられないのも事実だ。

仕方なくお弁当を拾い上げる。こいつが床に倒れ込んだ際一緒に落とされたんだろう。わりと力作であったお弁当を落とされて腹が立ったので、未だに床に転がっている奴の背中をもう一度蹴っておいた。(この時喘ぎ声のような声を出した丸眼鏡は無視した)

滝さんにひかれた席についてお弁当を広げる。思ったより被害が少なかったことに安心して箸をつける。
すると前の席で寝ていた男の子が急に起き上がってこちらを見た。

「うーん…。眠いC〜…。ん?君誰〜…。
うっわ!何そのお弁当!すごく美味しそ〜!お母さんの手作り?」

なんだこいつ。テンションの差が激しい。

「いや、自作」

そう言うとさらに目を輝かせて隣の席にやってきた。

「マジマジスッゲー!いいな〜。 俺も食べたいな〜。」

期待の眼差しで見てくるが生憎あげる気は無い。無視して食べ続けていると横からヒョイっと手が伸びてきた。止めようとしたが一足遅く卵焼きを取られた。

「ちょっと!何食べて…!」

「ん〜っ!美味Cー!君料理上手なんだね〜。」

そう言ってへらへらと笑ってくる彼に最早何も言う気になれず、諦めて食べるのを再開した。
すると何を思ったのかテーブルの前の方から赤い髪の男の子がお弁当を覗き込んでヒョイっと唐揚げを盗んでいった。

「マジだ!うっめー!クソクソ!もっと分けてミソ!」

そう言って隣と前からどんどんおかずを取られていく。
最初から分け与えた覚えなんかないぞ!
防ごうにも2人のスピードが早くて追いつかない。そうこうしているうちにほとんどを食べられてしまった。

「ああぁぁ…!私の“兼さんのかっこ良くて強い!最近流行りのお弁当〜一つ、士道に背くまじきこと〜”が…!」

「ん?今何つった?」

「は?“兼さんのかっこ良くて強い!最近流行りのお弁当〜一つ、士道に背くまじきこと〜”?」

なんだそりゃ、と言いながら赤髪はいちごオレを啜っている。
撃沈していると悪の権化の手下が私にパンを差し出してきた。
不思議に思って見つめると彼はぼそぼそと話した。

「これ、食べてください…。」

「え?何で?」

「跡部さんたちが…迷惑をかけたので…。」

「いや、これを貰っちゃったら貴方のがなくなっちゃわない?」

と言うと彼は机に置いてあるパンを指差した。これを貰っても彼のお昼はあるようだ。それなら有難く頂こう。何せお昼半分だ。お腹がすいている。彼の手をがっちりと握りしめて言う。

「ありがとう!いや、君はいい人だったんだね!最初は悪の権化の手下だと思ってたけど、本当はフェアリー属性だったんだね!私は2-Bの苗字名前。よろしくね!」

「樺地崇弘…1-A…です。」

「フェアリー樺地くん。この悪の巣窟の中で君は聖なる光よ!頑張ってその清らかさを保ってね!」

「ウ、ウス。」

いや、なんて素晴らしい人なんだ。きっとあの悪の権化に弱みでも握られているのだろう。可哀想に。
そんなことを考えながらもふりとメロンパンにかぶりつく。
滝さんが私にカフェオレをくれた。滝さんもいい人認定決定。
すると滝さんが悪の権化を指さして尋ねてきた。

「ねえ苗字さん。あの人のこと知ってる?」

「え?ああ、はい。隣の席の人です。」

「そうじゃなくて名前とか、何をしてるかとか。」

「そこまでは知りません。よく考えたら名前教えて貰ってませんし。私は悪の権化と呼んでいます。
滝さんも気をつけた方がいいですよ。あの人自分のこと俺様とか言うんですよ。厨二病がまだ治ってないんでしょうね。滝さん優しいからあれと一緒にいてあげてるのかも知れませんけどあれはヤバいですよ。」

そこまで話すと滝さんは目をぱちぱちとさせて、俯いた。肩がぶるぶると震えている。
え?なんかまずいこと言った?
そう思ってオロオロとしていると前の席の赤髪が吹き出した。

「っぶは!クソクソ跡部!厨二病扱いされてやんの!あっははははは!」

赤髪が吹き出したのを皮切りに周りの人たちが全員笑い出す。

「跡部厨二病だったの?知らなかったCー!」

「そうだったんですか跡部さん。そんなんだとすぐ俺に下克上されますよ。」

「跡部お前っ、そんなふうに言われてんの初めて見たぜ!激ダサだな!あっははは!」

さっきまで無表情だったきのこヘアーとさっき罵倒してきた帽子も大爆笑している。
そんなに面白かったのか。よかったな。
何で笑われているかわからない私が悪の権化の方を見ると悪の権化はニヤリと至極楽しそうに笑っている。
うっわ、悪そうな顔。

「ハーハッハッハ!女にそんなこと言われたのは初めてだ!気に入った!跡部景吾だ。いいぜ、俺様の女にしてやる。」

「いやだから結構です。」

「あーん?俺様のどこが気に食わないんだ?」

「全体的にですね。」

そう言うと周囲はさらに大爆笑。
先程蹴り上げた丸眼鏡も復活したのか席に座って爆笑している。するとこちらを見て聞いてきた。

「お嬢ちゃん、跡部のことかっこいいとも思わないん?」

「いや、まあ顔は整ってるんでしょうけどね。大体あの人のことよく知らないんでなんとも言えないですね。」

「付き合いたいとかも思わへんの?イケメンの彼氏なんて自慢出来るで?」

「自分の恋愛とか死ぬほど興味ないです。それにイケメンとかの話ならはっきり言ってタイプじゃないです。」

自分の恋愛なんて興味はない。私が好きなのはBLだ。アニメだ。ゲームだ。マンガだ。
イケメンはイケメンと付き合えばいい。そうすれば世界はハッピーだ。乙女ゲーもするけどあれは私にとってはネタかBL扱いだ。

「ほぉ。なら名前ちゃんのタイプってどんなん?」

なんかこいつサラッと名前呼びしてきたぞ。
っていうか何で恋バナをしているんだ私は。
もうどうでもいいからゲームしたい。ちらりと時計を見ると休み時間は残り残り10分程。今のうちにAPを消費しておきたい。我慢していたがもういいかとスマホを取り出してゲームを始める。
なあ、名前ちゃんー?と丸眼鏡が話しかけてくるがこの際無視する。
2プレイは難しいだろう時間を見てexpertのブースト3倍に難易度を最大にまで引き上げる。これならAPを一気に消費できる。イヤホンは鞄の中なので悪いとは思ったがマナーモードを解除する。
諦めない丸眼鏡をうるさいと一蹴してplayボタンを押す。
そこからは無心でタップし続ける。数々のゲームで鍛え上げた自慢の指は寸部の狂いなく画面を叩く。
フルコンボを叩き出して一息つくといつの間にか画面を覗き込んでいた奴らがキラキラとした目で見てくる。

「マジマジスッゲー!今のどうやってたの?指見えなかったCー!」

「お前すげーな!俺もクラスの奴がやってんの見たことあるけどそんなじゃなかったぜ!」

「ああ!指どころかアイコンを確認するだけでも精一杯だ!」

寝太郎と赤髪はまだしも帽子はどうした。最初は敵意剥き出しだっただろう。そう思ってじとりと帽子を見ると気まずそうに苦笑いをした。

「あ、いや、さっきは悪かった。ミーハーな女子かなんかだと思ったからさ…。」

「いや別にいいけど。女の子皆そうだと思ってるのは良くないんじゃないの?」

「分かってるんだけどね、仕方ないんだよ。自分で言うのも何だけど俺たちテニス部は女子に好意を持たれやすくてね。色々あったんだよ。」

滝さんが帽子を弁護する。
帽子の顔を見ると確かに整った顔をしている。モテる男も大変というやつか。女子校に通っていた自分にはよく分からないが。

「ああ。練習の邪魔されたりストーカー紛いのことされたり迫ってきたり色々すごくてな。いつの間にか女不信になっちまってた…。ほんとにすまなかった。」

「へー。イケメンも大変なんですね。異性にモテた経験のない私にはわからない苦労ですよ。」

「へ?お前だってあるだろ、その容姿じゃ。」

「残念ながらないですね。まあ、前の学校は女子校でしたし。
別にいいですよ、ご機嫌取ろうとしなくても。もう怒ってませんから。」

「あ、いや、そんなことはないんだが…。」

「で?私は苗字ですけど、貴方はいったいどちらさんで?」

「ああ、すまねぇ。名乗ってなかったな。俺は宍戸亮、2-Gだ。よかったら苗字、友達になっちゃくれねぇか?お前面白いしその辺のミーハー女と違うから仲良くできそうだ。」

おお。友達とな。いい響きだ。罵倒してきた帽子だが事情が事情だしちゃんと謝ってきた。きっと本当は良い奴なのだろう。

「いいけど、私の友達やるの結構大変だと思うよ?いいの?」

友達ということは私の腐女子活動に付き合ってもらうことになる。それに友達とそれ以外のフィルターが分厚い私は友達と判断した途端に急にベタベタとしだす。

「!ああ!もちろんだ!」

どうやらいいらしい。氷帝に来て初めての友達だ。テンションあがる。

「よーし、今日から私達は友達だ!私のことは名前と呼べ!あっははは!氷帝に来てからの初めての友達!ほら、亮!私の胸に飛び込んできなさい!」

笑いながら腕を広げると亮は顔を赤くした。
おいおい、そんなんで赤くなるなよ。このおにぎりシャイボーイめ!それじゃあ女子校のノリにはついていけないぞー!と言って赤くなった亮を追いかけ回す。
そんな私たちを見て寝太郎と赤髪も追いかけっこに参加する。

「名前ちゃーん、俺芥川慈郎ー!ジローって呼んで!俺とも友達になろうよー!」

「クソクソ!宍戸ばっかずりーぞ!俺は向日岳人!俺とも友達になってミソ!」

「あなや!友達が一気に3人に。いやー嬉しいなあ!よぉし!ジローちゃんとがっきゅんも抱きしめてやろう…!」

千秋くんのような発言をして2人を抱きしめる。キャッキャウフフしていると滝さんも笑いながら俺も友達にどう?と言ってくれたので萩くんも友達だ。(抱きしめようとしたらサラリと抱きしめ返された。大人な対応だ。)ついでに樺地くんも友達勧誘すると頷いてくれたので彼も抱きしめた。
丸眼鏡も言ってきたが無視した。(が、がっきゅんに言われたので仕方なくなってあげた。)

そうしているとチャイムがなったのが聞こえた。
あ、授業…。
転校2日目でとは思ったが、みんなサボるようだったので私も一緒にサボった。

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