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乙女、青春を腐心せよ(腐女子連載 長編)
9
side跡部


「臨時マネージャーになりました苗字です。よろしくお願いしまーす。」

そう軽く自己紹介をして彼女はこちらに歩いてきた。

今日は苗字の臨時マネージャー初日だ。
ざわつく部員達を一喝して指示出しをする。
それを終えると、苗字にマネージャーの業務を教えるため部室に連れて行く。
声をかけると俺の後ろを早足で着いてくる。
ハッ。そういうところは可愛いじゃねーの。
中々に多い仕事を教えるが、特に驚く様子もなく受け入れている。聞くと前の学校でバスケ部の臨時マネージャーのようなことをしたことがあるらしい。やり方は大体分かると言う彼女に仕事を任せ、自身も練習に参加するため部室をあとにする。

30分程して苗字がドリンクを入れたクーラーボックスを持ってやって来た。
ドリンクを作るにしては時間がかかりすぎじゃねーか?
姫城に限って仕事をサボるなんてことはないだろうが少しおかしい。

「思ったより遅かったじゃねーの、あーん?何かわかんないことでもあったか?」

「ごめんなさいね。別に分からないことはありませんでしたよ。明日からはスピード上げます。で?作ったのを配ってくればいいんですかね?」

「ああ。ってお前、部員全員分作ったのか?」

「え?そうですけど、ダメでした?」

ダメなんてことはない。寧ろこの時間で200人いる部員全員のドリンクを作ったんだ。仕事が早すぎる。

「いや、今までドリンクが必要なのはレギュラーと準レギュラーだけだったからな。平の奴らには各自で用意させている。」

苗字を見るとガーンという効果音がつきそうな顔をしている。
しかしそれは今までは自分達でやっていて平部員にまで手が回らなかっただけだ。用意してくれるならあいつらの練習時間も増えて喜ぶはずだ。

「もし可能なら明日から全員分作って欲しい。あいつらもその方が喜ぶだろう。」

「それは全然いいんですけど。何かすみませんね。」

「いや、むしろ有り難い。まさかお前がこんなに出来ると思わなかったからな。さっきは遅いとか言ったが、それなら仕事が早すぎるくらいだ。何か必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ。」

「あ、それなら飲んだ後に感想頂けます?もう少し甘いのがいいとか、さっぱりがいいとか。言ってもらえれば調整するので。あと、もし良ければ明日からは粉じゃなくてレモンとかで作った方に変更してもいいですか?そっちの方が体にもいいし、コストも低いんで。」

「ほぉ。お前、やるな。いいだろう。そのへんはお前に任せる。」

なるほど、たしかに粉を使うよりもそっちの方がいい。
しかしこいつ、好みに合わせて味を変えるつもりか。

自分の好みを伝えてコートに入る。


少しして平部員の練習を確認しに行くと部員達が話しているのが聞こえた。

「苗字先輩いいよなー!」

「可愛いし、優しいし!さっきドリンク渡された時もさー、お疲れ様って!」

「お美しい!って感じだよなー!」

「なー!先輩が正マネージャーになってくれたらいいのにな。」

そう言ってアハハと笑っている。
男子テニス部も昔マネージャーを採っていた時期があった。しかし入ってきた女子マネージャーは全員レギュラー目当てで仕事なんてしなかった。たとえやってもレギュラーの分だけで平部員にまで気を配るやつなんていなかった。
これはいい人材を見つけた。
ニヤリと口角を上げて、どうにかして苗字を正式なマネージャーにしてやろうと画策する。


その後は通常の練習メニューをこなして今日の部活は終となった。
その後レギュラーとマネージャーは残って部室でミーティングを行う。
聞くとやはり今日の部活はいつもよりスムーズだったそうだ。
練習の報告などをしてミーティングを終えたところで岳人が喋り出した。

「そう言えばさー、何で名前跡部には敬語なんだ?」

「え?それは友達じゃないからじゃない?」

言われてみれば俺達は友達になっていない。
すると起き上がったジローがニヤリとして言った。

「えー、マジマジー?跡部まだ名前ちゃんに友達になってもらえてないんだー?可哀想だCー!」

「なっ…!」

俺様が可哀想だと?
これにはプライドが傷つけられた。
キッと苗字を見て言う。

「おい、苗字!俺様も友達になってやる。あーん?」

「え、そんな無理やりなってもらわなくても結構で「なってやる」…そうですか。」

大体こいつらに女友達が出来て俺様に出来ないなんておかしい。
フンッと笑うと苗字が小さく口を開く。

「えっと、じゃあ…景吾?」

ズキューン!
な、なんだこれは…。こいつのことがすごく可愛く見える。今まで女にファーストネームを呼ばれたことなんて沢山あるだろ…。
顔を手で覆って俯く。
すると彼女は俺が気を悪くしたと思ったのか覗き込んできた。

「えっ、ごめん。ダメだった?あ、もしあれなら跡部さんって呼ぶから…。」

「いや、景吾でいい。…名前。」

「!」

そう言うと名前は嬉しそうに笑った。
それを見てまた胸が高鳴る。
くそ、俺様をこんな気持ちにさせるなんて…。

悔しいが何故か清々しいような気持ちで部室を出た。

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