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フラベル
夏祭りの日は一緒に


「ベル先輩ー、綿菓子買って下さーい。」

「うるさい。なんで王子がカエルに奢らなきゃいけねーんだよ」


蝉の声が響き渡る夏の夕暮れ時。

夕日に輝く金髪の青年と、頭に黒いカエルらしき帽子を被った少年が二人、神社の鳥居の前に腰を下ろしていた。



「堕王子のくせにぃー」


カエルの帽子を被った少年が、頬を微かに膨らませ自分の足元に視線を落とした。









***





事の始まりは1時間前。





「ベル先輩ー、今日近くの神社で夏祭りあるらしいですよー。」


「へぇー」



フランの言葉に、ベルは興味なさそうに答えた。



「それで、ミー今無性に綿菓子食べたいんですよー。」


フランが椅子に自慢の長い脚を組みながら座るベルの顔を覗き込む。



「行ってくればいーじゃん。」



目を合わせようとしてくるフランを無視して、ベルはファッション雑誌をめくる手を止めようとしない。



「だって今日任務あるじゃないですかー。……あっ、もしかしてベル先輩一人で片付けてくれるんで…ゲロッ!」


フランの頭の帽子に、綺麗に磨かれたナイフが数本刺さる。



「………痛いじゃないですかぁ」


フランが少し、緑色の瞳に涙を浮かべる。



「うるせっ!なんで王子がカエルのために一人で任務やらなきゃいけねーんだよ。」

「じゃあ任務が早く終わったら、二人で神社行きましょう?」













***




そして意外にも任務は早く終わり、(フランがいつも以上に本気だったため)今に至る。





「ベル先輩、とりあえず屋台のある所に行きません?此処にいてもつまらないですしー。」


フランが帽子を被り直す。
任務の時に飛び散ったピンクのペンキが、カエルの帽子に微かな染みを作る。


「あーあ、王子のプレゼント汚した。」


普段フランは、自分の服を汚すという事は決してしない。

だから今日のカエルの帽子は、どれだけフランが夏祭りに行きたかったかをよく表している。


「へぇー、先輩ミーが帽子汚して拗ねてるんですか。」

フランが得意げにベルを見上げる。


「は?どうしたらそういう結論になるわけ?お前いっぺん死ぬ?」



ベルはそう言いながらも、自ら腰を上げ、屋台の並ぶ神社の中へと歩いて行った。




「………なーんだ。ベル先輩もなんやかんや言って、遊ぶ気まんまんじゃん。」











***



さすがに夏祭りと言うだけあって、屋台が並ぶ辺りには人で溢れ返っていた。



「何あれ?」


不意にベルがフランの隊服の袖を引っ張る。


「何ですかー……あぁ、あれはナイフ投げですよ。」



それは、玩具のナイフを景品の的にあて、景品をゲットするという単純な遊びだった。



「へぇー、面白そうじゃんっ♪」


ベルの目が光る。(正確には、前髪で隠れていて見えないけれど)














―…シュッ!




「しししっ♪王子最強。」


「うわー、出たよ。自称最強発言。」



ベルは次々と的にナイフを投げつけ、景品をゲットしていく。


「ベル先輩、これは堕王子が天才なわけじゃなくて、小さい子でも遊べる様に簡単になってるだけですよー。」



一個、また一個と狙った景品をゲットしていくベルには、フランの毒舌でさえ心地好い音楽に聞こえた。



「…それに、自分の本物のナイフ使うとか反則すぎですよー。」



そう、先程からベルが的に向かって投げているナイフは、何を隠そう、正真正銘ベル愛用の磨かれたナイフだ。



「しししっ♪王子にルールなんて関係ねーんだよ。」



「(あぁ、駄目だこりゃ。目がイっちゃってる。)」


そう諦めて、フランは一人綿菓子の屋台へとベルを置いて歩いて行った。
















***




「……あり?」




フランがナイフ投げの屋台へと戻って来ると、
そこにはもうベルと景品の姿は無くなっていた。





「ベル先輩何処行っちゃたんですかねー。」




ナイフ投げの屋台からは、萎れたおじさんの声だけが響いていた…。










***




「あ、見つけましたー。」





フランが最初に2人でいた鳥居に足を運ぶと、
そこには不貞腐れた顔で階段に腰を下ろすベルの姿があった。





「ベル先輩、急にいなくなるから探しましたよー。」



そう言ってフランはベルの隣に腰を下ろした。










「………俺だって、探したし。」




先程まで不貞腐れた顔だったベルが、微かに頬を染めて呟いた。




「……へぇ、探してくれたんですか。」

「ばっ!!ちっげ!!」




フランの手が、ベルの頬に触れる。





「ミーだって寂しかったんですよー?ベル先輩、ミーよりナイフ投げに夢中でしたから。」





ベルの微かに赤く染まっていた頬が、真っ赤になる。





「はい、綿菓子です。」




そう言ってフランはベルに2つある綿菓子の1つを手渡した。





「来年も一緒に来ましょうね?先輩。」










こんな2人の、とある夏の出来事。






*end*




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