フラベル
いつかこの日が来る事は分かっていたんだ。
「今日まで、できの悪い弟子を預かって下さり、ありがとうございました。」
目の前の、特徴的な髪型をした男が静かに話す。
―…
いつかこの日が来る事は分かっていた。
「ベル先輩、ミー、明日ここ(ヴァリアー)を出ることになりましたー」
だから、生意気な後輩がこんな言葉を言ったって、別に驚かなかった。
「それでですねー、最後に1つお願い聞いてくれませんかー?」
「何?」
きっとまた、いつもみたいに毒舌を吐くのだろう…。
「今日1日、ミーと一緒に居てくれませんか?」
***
「ベル先輩ー、ここでお昼食べましょー」
そう言ってフランが指定したのは、俺とフランが初めて一緒に入ったイタリア風の店。
「やっぱりミーはこれですかねー。」
フランはトマトのパスタを頼み、俺はシーフードパスタを頼んだ。
注文を待っている間、フランはずっとしゃべっていた。
「ベル先輩ー、次何処行きます?」
「どこでもいい。」
「んー…。あ、何か思い出に買いませんか?」
いつもとまったく雰囲気の違う言葉に戸惑った…。
「嫌だ。」
でも結局、俺はその誘いを断った。
形が残る物は欲しくなかった。
それを見る度に、フランとの思い出を思い出してしまいそうだったから…。
「お待たせいたしましたー!」
運ばれてきたパスタを俺らは、終始無言で食べ進めた。
「ベル先輩、観覧車乗って帰りましょう?」
***
―ガタッ…
円形の乗り物は、2人分の重さが加わると、2、3度ガタガタ音を立てた。
「わぁー、さっきの店がだんだん小さくなりますねー。」
まったく感情のこもっていない言葉…。
いや、もしかしたらこもっていたのかもしれない。
「…ベル先輩とも、あと数時間でお別れですねー。」
「…そうだな」
相変わらず、目の前のカエルは窓の外を眺めている。
「…なぁ、カエル。どうだった?俺といて…。」
そう問いかけると、フランは一瞬こちらを見たが、また窓の外へと視線を戻す。
「…そうですねぇー。最初は本当、いつ殺そうか考えていました。」
「…俺も。」
2人で軽く笑いあった。
「でも、何度か一緒に任務をするうちに、少しずつ変わってきたんですよねー…。」
2人を乗せた乗り物は、頂上まであと少しだった。
フランの声が、2人きりの個室に響く…。
「ベル先輩との任務が、いつからか楽しみになって、ベル先輩が笑ってくれると、ミーも幸せな気持ちになるんです。」
―ガタッ…
そしてついに頂上。
「…だからっ…本当に、…ベル先輩と別れることが、できて…すごく、…幸せですー…」
俺を正面から見たフランの目には、涙が溢れていた…。
「堕王子なんて…っ…最初から、…大嫌いですー…」
今日はじめての毒舌。
鳴呼、こいつは嘘をつく時、毒舌になるのか…。
―…堕王子、早く死んで下さいー。
―…ベル先輩、ミーがこんな子供騙し貰って嬉しいと思いますかー?
―…ベル先輩の手作りなんて、欲しくないです。
「…先輩、…さよ、なら…ッ…」
その言葉を聞いたとき、俺の体は勝手に動いていた。
―ガタン…ッ…!
フランの正面に立つ。
そして、上から泣き顔を見下ろしてこう言ってやった。
「…いなくなるとか…、ぜってぇー認めねーからなっ!!!」
「…ベル先輩…?」
初めて見る、驚きの顔。
「…王子にっ、あんな事しておいて、消えるとか許さねーから…ッ!!!」
あんな事って、どんな事だ…?
自分で言っていて、恥ずかしくなった。
「俺がっ…惚れてやったんだから…責任…とれよっ…」
俺の目からは熱い雫が溢れ出す…。
「…ッお前が、いなくなったら、俺は…誰をナイフの的にすればいいんだよ…ッ!」
今まで固まっていたフランが、フッと笑って、俺の口に軽いキスを落とす。
「本当、ミーいつか先輩殺しちゃいますよ?」
そう笑ったカエルの目には、もう先程の涙は無かった。
***
朝目を覚ますと、隣にはもう温もりが無かった…。
その代わり、俺があげたカエルの帽子だけが置いてあった。
「……っ…〜。…結局、また1人かよ…っ…」
―ガチャッ…
大きな扉が音を立てて開いた。
「ベル先輩、当分任務には参加させてもらえないみたいですー。」
そこには苦笑いを浮かべた、いつも通りの隊服姿のフランが居た。
フランは俺の居るベットに近づくと、
「まぁ、またベル先輩と一緒に居られるからいいんですけど。」
と、あの生意気な笑顔で笑ってみせた。
*end*
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