雲綱 2 雲雀さんから逃げる様な形で教室まで走ってきた俺は、めちゃくちゃ息を切らしていた。 「十代目ッ!?大丈夫っすか!?」 訳ありで、俺よりも先に学校へ着いていた獄寺くんが、目を丸くして駆け寄って来た。 「ご…、獄寺、くんッ……、やっ、ぱ…雲雀さん、は…怖い…ね、」 声が少し震えていたのは、息切れのためなのか。 はたまた雲雀さんへの恐怖なのか。 とりあえず息を整えるために、先程から痛んでいる胸は無視する事にした。 *** にこにこにこ 今視線の先にいる人物に、音をつけるのならばまさにそれだろう。 『やぁ、沢田!』 きっと今話しかけたら元気にそう言うだろうなー…。 話しかけてみようか。 反応が面白そうだし。 「…ひばっ「雲雀ー!」 「やぁ、山本武!」 満面の笑顔は俺にじゃなく、山本に向けられた。 *** 「十代目ー、山本の奴今日部活で遅れるそうっす。本当野球馬鹿ですよねー………ってえぇ!?…十代目?」 「……………………えっ?」 「……………もしかして、泣いてらっしゃいました?」 言われて初めて気がついた。 俺、泣いてた。 でも何で? 「目赤かったので…。すみません!俺の勘違いみたいっすね!」 獄寺くんはいつもみたいににかっと笑うと、深くつっこんでくる事もなく、教室を出るよう俺にうながした。 なんで胸が痛いのか、 なんで知らぬ間に泣いていたのか、 考える事はいっぱいあったけど、今は全部無視することにした…―。 *** 次の日、早朝。 「あれっ?今日雲雀いないっすね」 「本当だ!どうしたんだろーな」 いつものように登校時間ギリギリで学校にたどり着くと、最近見慣れた学ラン姿は無かった。 「体調でも崩したのかな?」 あの雲雀さん、 特に最近の雲雀さんからはそんな事考えられなかったけど、口に出してみた。 「それはないと思うぜ?昨日帰りにあったんだけど、すっげー元気そうだったし。」 「そ、そっかー…。そうだよね」 「十代目が心配なさること無いっすよ!今日も学校のどこかでにやけてますって!この前なんか、あいつ屋上で鳥に向かってにやけてましたよ!?」 二人の声が遠く感じる。 だけど、 その一言一言は正確に俺の中へと入ってくる。 なんか、俺だけ置いてかれた感じ。 二人は雲雀さんの事色々知ってるのに、俺は何も知らない。 雲雀さんは笑って挨拶をしてきてくれるけど、俺が一人の時は、あんなに明るい笑顔は見せてこない。 やっぱり俺は置いてきぼり? 邪魔な存在? 「あっ!雲雀!」 獄寺くんの声に、思わず顔をあげた。 「君達何群れてるの?…咬み殺す」 黒の学ランをなびかせながら歩いてきた風紀委員長は、そう呟いてトンファーを光らせた。 *続く* [*前へ][次へ#] [戻る] |