短編
君の景色
注意!
シリアス文です!
NL表現が多々あります!
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「俺、今日部活の後輩と会う約束あるから…悪いな。」
「部活の後輩っ!?うん、うん、もしかして朝まで過ごしちゃうの!?しっかりリードしてあげてね!亮次(りょうじ)は俺様攻めでちょっとキツイところあるから。」
「……じゃあな、」
「いってらっしゃーい!」
俺を笑顔で見送った男、龍輝(りゅうき)はボーイズラブが好きな腐男子だ。
そして、今現在俺の恋人であって、同居もしている。
もちろん俺は龍輝が好きだ。
龍輝が好きだけれど、龍輝の様に腐男子でも無いし、ホモでも無ければゲイでも無い。
ただ純粋に惹かれて、初めて好きになったのが龍輝という男だったのだ。
龍輝に出会うまでにも、何人かの女と付き合ったりした。
「俺はこの女が好きだ。」と思える時だってあった。
けれど、龍輝に惹かれて、龍輝が好きだと気づいた時、今までの付き合った女に抱いた感情は"恋愛"では無かったのだと気づいた。
じゃあなんで俺が浮気をするのか。
それは一ヶ月前の話になる。
その日は龍輝と珍しく口論になり、俺は家を飛び出して、ゲーセンに学校のよくつるんでる連中と遊びに行った。
そしたらその中の一人が女も呼ぼう、と言い出して、呼び出された女の一人と俺はカラオケに行くことになった。
龍輝に多少の罪悪感はあったものの、口論の原因が龍輝が女から告白されて、曖昧な振り方をしたことだった為、俺も少し位遊んでも構わないと思ったのだ。
『亮次くん、えっちしよ?』
カラオケで2時間位経った頃だっただろうか。
女が急に『もう出よう?』と言い出して建物の外に出ると、急にそう言って腕を絡めてきた。
それからはただ求められるままに女を抱いた。
久しぶりの柔らかな体に、『あぁ、こんな感じだった。』と昔抱いた女の体を思い出した。
その次の日からは、龍輝とも普通に会話をして、一緒の家に住んで、いつも通りの生活を送った。
けれど、一つだけ変わったんだ。
また俺は、女を抱くようになった。
龍輝を嫌いになったわけでも無いし、女が恋しくなったわけでも無い。
自分でもよく分からない。
ただ、求められれば拒まないようになったんだ。
そんなある日、家に女を連れ込んでいたら、正確に言えば女が無理矢理俺について来た時、龍輝が帰ってきた。
「誰…?」
「龍輝ですっ」
人の家に勝手に上がり込んでおいて、家の主に「誰」は無いだろう、と思った。
「亮次と一緒に住んでるの?」
「んー、まぁそんな感じかなっ」
この家は龍輝がいないと成り立たない。
「ふーん。そうなんだ。けどさ、今はちょっと出ていってもらえるかな?」
「あー、俺邪魔しちゃった?ごめんねー」
「解ってもらえればいいよ。ねっ?亮次?」
隣にいた女が腕を絡めてくる。
…―ドンッ!!!
「―…っきゃぁ!」
「出てけ。」
「は?亮次……ちょ、髪引っ張っらな…、痛い!痛いよっ!」
「出てけ。」
俺は女の髪を引っ張り、家の外へと押し出した。
女が叫んでも、痛がっても、泣いても、名前を閉じた扉の向こうで叫んでも、俺は何も思わなかった。
「亮次、俺達別れよ?」
そうして俺がリビングへと戻って来ると、龍輝が唐突にそう俺に告げた。
「知ってたよ、男の子と会うって言って、女の子と会ってたの。補習で遅れるって言って、女の子とホテル行ってたのも。」
俺の目の前にこの家の鍵を置き、それから俺に向かい合った。
「ねぇ、本当に俺が男の子となら亮次がえっちしても平気だと思ってた?」
顔はいつもの顔。
少し笑顔で、目を細めた幼い顔。
「俺がなんで告白された時、曖昧に答えたか知ってる?あれが原因で亮次はまた女の子を抱くようになったんだよね?」
いつもの顔に、薄らと影が滲む。
「亮次に傷ついてほしくなかったからだよ、」
龍輝が俺から床へ視線を下げる。
ぽた、ぽた、と床に小さな染みができる。
「俺らの学校、女子少ないからほぼ男子校だし、実際男子同士で付き合ってる人もいるよ…?けど、亮次が俺と、俺なんかと、付き合ってるって事がばれて、周りから変な目で見られるかもって、思うと…俺、おれ…っ…」
そこまで言うと、龍輝は俺の横を走って通り過ぎ、家から出て行った。
―コツンッ、
さっきまで龍輝が立っていた場所に、俺の手の中にあった丸い箱が音を立てて転がった。
白いシンプルなラッピングの小さな箱。
中には、俺がさっき自分で左手の薬指にはめたシルバーの指輪と同じ物が一つ。
内側には俺と龍輝の名前。
俺がこの家を出て行った日、女に何万貰ったか知ってる?
何処にいたって、誰といたって考えてたのは龍輝の事だったって知ってる?
この指輪が何だか知ってる?
今日渡すために好きでもない奴等抱いた時の気持ちを知ってる?
俺たちが付き合いだしてどれくらい経ったか知ってる?
今日が何の日か知ってる?
こんな風にして稼いだ金で買ったものなんて、龍輝にとっては汚いものなのかもしれない。
付き合いだしてどれくらいなのか、なんて、一ヶ月記念日とかをわざわざ祝っていない俺達には関係ないのかもしれない。
昔龍輝が親から受けた言葉で、自分をどれだけ追い詰めてたかなんて、俺には分からないかもしれない。
でもさ、今日は俺たちが付き合いだして3年目で、俺達が卒業するまであと一ヶ月で、頼んでおいた指輪がようやく完成した日なんだぜ?
その一週間後、龍輝は学校を辞めた。
この部屋に帰ってくることもなかった。
*end*
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