短編
君の景色2
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君の景色の続編となっております。
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〜龍輝side〜
俺は今、自宅から自転車で20分の場所にあるコンビニで働いている。
なんでわざわざそんな遠くで働いているのか。
学校から近いから、ではない。
俺は今学校へ行っていない。
三週間前まではバイトなんかしていなかったし、自宅ではなく学校から近い場所にあるマンションで暮らしていた。
亮次。マンションで一緒に暮らしていた、同じ高校に通う恋人。
中学一年生の時のクラスメイトで、志望校も同じだった所謂腐れ縁だ。
初めての席替えで、席が前後になったことでよく話すようになった。
小学校からの幼なじみはお互いいたけれど、一番の親友というのは俺にとって亮次で、亮次にとっては俺という仲になっていった。
俺は昔から、男同士の恋愛が描いてある漫画や小説が好きだった。
かと言って、自分が男友達を好きになることは一度もなかった。
なかったはずなのに、何時からか気付いたら、俺は亮次を恋愛対象として好きになっていたんだ。
『龍輝、付き合ってくれ。』
だから中学校の卒業式、一緒にいつものように二人で家へ帰る途中、亮次から告白された時はもう死んでもいいとも思った。
「いらっしゃいませー」
そんな亮次とも、三週間前に終わった。
嗚呼、確か今日は卒業式だっけ。
「龍輝くん、休暇の時間だよ?」
「あ、すみません。」
自分から終わらせたのに、今でも気が付けば亮次の事を考えている自分がいる。
バイトの貴重な休暇時間にも気が付かない程、俺はまだ亮次が好きだ。
「……けど、向こうはもう男の俺なんて眼中に無いか。」
休暇時間は15分。
俺は出来るだけ多く働きたいと店長に頼み込んであるため、一日のほとんどをバイト先で過ごしている。
「店長、ちょっといいですか?」
店の奥で商品整理をしていた店長に、俺は初めて自分から話し掛けた。
***
「もうみんな、帰っちゃったかな?」
約三週間ぶりに訪れる学校。
桜の花はまだ蕾で、賑やかな卒業式が終わった学校は静かだった。
店長に少しだけ学校を見てきたい、と頼んだらすんなりオッケーを出してくれた。
『君は働き通しだから、たまには外の空気を吸ってきた方がいい。もう桜も咲いているだろう。』
俺よりも店の外に出ずに、毎日俺達のミスの分も一人で夜まで働いていて、桜がまだ蕾だということも知らない店長は、見た目からは想像がつかないほどお人よしだと思う。
そんな店長の店は、嫌いになんてなれるはずがなくて。
「似てるんだよなあ。そういう見た目によらず不器用なところ。」
彼も今日、この学校を卒業して、この門を通ったのだろうか。
「ッ龍輝…!!!」
「あれ、まだ通ってなかったんだ。」
***
「…なんで学校辞めたんだよッ、」
「…なんでって、そんなの…」
亮次に嫌な気持ちのまま卒業式を迎えて欲しくなかったから。
そう言いかけて、口を閉じた。
勝手に家を出て、学校を辞めたのは俺だ。
嫌な気持ちのまま卒業して欲しくない、と思っているのに結局ここに来てしまっているのも俺だ。
「……ごめん、」
「そんな言葉が聞きたいんじゃない。」
じゃあ何て言えばいいの?
亮次が浮気したから家を出た。
女の子と普通に恋愛して欲しかった。
俺があのまま学校にいたら嫌でも毎日会うでしょ?
卒業式を悪い気分で迎えて欲しくなかった。
「亮次に、幸せになって欲しかった。」
ぽろり、
色々頭で考えていた言葉は中々口に出せなかったのに、一言俺の口から零れ出た。
「じゃあなんで学校辞めたんだよッ!!!」
三年間付き合って、その前から親友で、そんだけ長い間傍にいたけれど、喧嘩も一杯したけれど、亮次の怒鳴り声は今日初めて聞いた。
「……ッんで、出てくんだよ…、」
こんな弱々しい声や顔も、初めてだ。
「俺、自分で思ってるより龍輝に依存してた」
「依存…?」
「歯も磨き忘れるし、爪切りの場所も分かんねーし、学校言ってもお前の名前呼んじまうし、」
「俺は、龍輝がいないと駄目なんだ…」
初めて、彼の泣き顔を見た。
***
十年後...
「なあ、今日何の日か知ってる?」
「え?何の日だっけ…」
久しぶりの二人揃っての休暇。
ここ最近はお互い忙しくて、同じ家に住んでいるのになかなかゆっくりと話す時間がなかった。
「ヒント、十三年。」
「十三…?」
「分からないのか?」
少しムスッとした顔で、隣に座る亮次がこちらに顔を向ける。
「嘘、嘘、分かってるよ。俺等が付き合いだしてから今日で十三年経ったんだよね?」
「……おう、」
サイズは違うけど、お揃いのグレーのパジャマ。
青色と黄色の色違いのマグカップ。
その横には同じ機種の携帯が二つと、その両方に旅行先で買ったお揃いのストラップが付いている。
「けどさ、俺等って一回別れなかったっけ?」
「馬鹿、その間も二人とも同じ事考えてたんだから変わんねーよ。」
そういって今まで俺の手の上にあった亮次の手が、俺の髪を撫でる。
「ごめんな?」
「馬鹿、こんな日に謝んないでよ。」
二人の左手の薬指には、内側に二人の名前が彫ってあるシルバーの指輪。
*end*
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