幼なじみ
授業中
***
「今日は2人1組で泳いでもらうぞー」
1時間目の水泳から、そんな言葉を聞かされてしまった。
「田中(俺の名字)、お前は泳げないんだから、ちゃんとペアのヤツに教えてもらうんだぞっ!」
先生、笑顔でさらっとそんな怖いこと言わないで下さい。
***
「「………。」」
もちろん俺は、志己とペアだ。
「2人1組」と聞いた瞬間、志己が俺の腕を引っ張った。
「―っはぁー……」
さっきからため息しか出てこない。
「ほら、泳ぐぞ」
いつの間に入ったのか、志己がプールの中から俺に手を差し出す。
「……………ぇえええ!?」
し、志己が俺に……手!?
驚いた俺は、どうやらそうとう大きい声で叫んでいたらしい。
泳いでいたクラスメイト達も全員俺の方を見た。
「何みてんだよ、お前等。」
志己が睨むと、全員また何も無かったかのように泳ぎだしたけど…。
「お前も早くしろ。」
「…うん…。」
志己の手を握って、プールの中へと入る…。
…こうやって志己の手を握ったことなんて…今まで無かったかも。
―…諒っ!早くっ!
―…まっ、待ってよぉ!
「…あ、小2の頃に1回あったっけ…」
たしかあれは、俺が野良犬を昼寝から起こしてしまって、追いかけられた時だ。
「何言ってんだ?早く泳げ。」
「…っあ、うん」
***
さて、これからどうしよう。
俺は自慢じゃないけど、まったくと言って良いほど泳げない。
「今日のノルマは、25mをクロールだ!終わったペアから帰っていいぞ!」
「えー超簡単じゃん」
「つまんねぇー」
みんなの声が遠くから頭の中に響く…。
鳴呼、どうしよう。
絶対帰れない…。
―スルッ…
「…っえ…?」
志己の腕が俺の腰へ回る。
「ほら、受け」
「…なっ…!?」
―オマエガキライダカラ―
「―…っ…」
昨日の志己の言葉が頭を掠める…。
「遅い。」
そう言って志己は、俺の腰と腕を掴み、水中に浮かばせた。
「―…っ…」
志己の手が腰に触れる度に、体が熱くなってしまう…。
早く終わらせたいためか、今日の志己は優しい気がする。
いつもみたいに俺が失敗しても怒らないし、ちゃんと溺れない様に腕でしっかり俺を固定している。
「次、1人で泳いでみろ」
周りには俺たち以外、ほとんど人が居なくなっていた。
「…分かった。」
泳ぐしかないな…。
―チャプッ…
しょうがなく俺は泳いでみる事にした。
…きっと5mも泳げないけど。
「俺は上で見てるから」
「え…っ!」
どうしよ…。溺れそう…。
―バシャッ
とりあえず思いっきり壁を蹴ってみた。
進めっ…!進めっ…!
―………え!?
急に足が痛くて泳げなくなった。
「―っ…う…ッ…!……ッ…」
足つったのか!?ヤバイッ…!息が…ッ!
―バシャッ…!
「……ッ…ん…っ!…ゲホッ…!ゲホッ…」
「諒…っ…」
あ、さっきの水の音は志己が飛び込む音だったのか…。
「…っ…し、……き…っ…」
いくら鬼でも、命は助けてくれるんだな。
―ギュッ…
え…??
「…あがるぞ。」
そう言って志己は俺を抱きしめていた手を離し、
俺をプールサイドへと上げた。
もう周りには誰も居ない。
2人だけのプール…。
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