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過去拍手お礼文
不良×健気
「雨、濡れちゃいますよ?」



放課後の下駄箱、
正確に言えば下駄箱を出て、ドアを開けようとしたところ。



「傘、貸しましょうか?」



少し茶色がかった色素の薄い髪と、それと同じ色の瞳。

あれ?此処男子校じゃなかったっけ?
と思ってしまった程、目の前のその人は綺麗に見えた。


別にそこまで女顔でも無いし、背が低いわけでも無いけれど。

けれど、あの日の、あの時の俺には、女と間違える程、否、それ以上に輝いて見えたんだ。








***



「井野(いの)くんっ!」



そう呼ばれて振り返れば、そこにいるのはこの学校の中では幼い顔付きの人。




「昨日ね、この前話してたゲーム買ったんだ。今日は用事あるから、明日の帰りうち寄ってかない?」


あの雨の日までは顔も知らなかった人。

まぁ、それもそのはず。
あの日の3日前に、ここへ転入してきたらしいから。


「おう。」

「じゃあまた明日の帰りに、此処で!」



じゃーね!と言って手を振る姿は、どう見ても高校生には見えない。

身長がギリギリ160pあるからまだしも、150pだったりしたら、絶対中学生だ。
もしかしたら、背の高い小学生でも通用するかも。


「……。」


そんな相手に、柄に似合わず手を振り返してしまう俺も俺だけど。



***


ここ最近、これまた柄に似合わず、"恋"もしてしまったみたいで。

金髪で制服はダラダラで、指定なんて守った事無くて、喧嘩ばかりしている俺が恋をした相手。

その人は、俺と全くと言っていいほど真逆な人で。



『井野くんっ!』



今朝の男子、春日井 鷹斗(かすがい たかと)だったりする…。


名前には似合わずいつも笑顔で、俺みたいなトゲトゲしさも無く誰にでも優しい人。

声も高くて腰も細く色白で、決め手は大きな潤む瞳。

そんなところにも惹かれたけれど、やっぱり1番はあの優しさだ。


初対面の俺に水玉模様の傘を貸し、自分はもう一本持ってるからと嘘をつき、濡れて帰って次の日は熱を出して欠席したことを俺は知っている。

その次の日に見た笑顔が眩しくて、真実を知っているということは言っていないけれど。






「やっべ、雨降ってきた!」

「早く帰るぞ!」




そんなやり取りが聞こえ、何気なく後ろを振り返る。


二人の男子生徒が、黒色と白色の傘を片手に持ち、今まさに玄関を出ようとしていた。




……あれ?

あの白地に水色の水玉模様って…。


男子生徒の声が遠ざかっていく間中、俺はそのうちの一人が手にする傘をただずっと見つめていた。





***


「井野くん、」


そう呼ぶ声は、昨日より暗く感じた。



「春日井…?」


振り返れば、やはりその顔に昨日の様な笑顔は無く。


「えと、今日さ、帰りにうちに寄る話してたじゃん?」

「……。」


無言で相槌を打つ。

なんだ?この空気…。


「それ、さ…、やっぱり無しにしない?」


春日井といて、感じた事の無い重たい空気。


「…なんで?」


胸が苦しい日もあったけれど、春日井といる時は居心地の良い空気しか感じた事がなかった。



「ちょっと用事が出来ちゃって…。ごめんね?」


「……それ、本当かよ。」


「………本当、だよ。」



じゃあ、どうして。



「目、合わせないんだよ。」


「……ッ、」




ムカムカする。

喧嘩の時とは違った、別のイラツキ。


胸に黒い靄がかかって、どんなに頑張っても、その靄を晴らす事ができないような。



「……だって、井野くん、本当は俺の家なんか、来たくないでしょ?」


「…え、」



それは予想もしていなかった答え。



「だって井野くん、昨日俺の傘使ったよね?」


「使ってなんか、」


「いいよ、嘘なんてつかなくて。あの水玉の傘が俺のだって知ってるの井野くんだけだもん。」


「意味がわから、」


「そんなに俺の事嫌いだった…?また濡れて熱出して、学校休めば良いって思った!?」


「かすが、」


「もういいよ…!俺、やっと井野くんと少し仲良くなれたと思ってたのに…、」



春日井の薄茶色の瞳から、涙が零れ落ちる。




「…俺だって、井野くんのこと、もう嫌いだから…」







***



春日井が俺に背を向けて校舎に入ってから、どれくらい経ったのだろう。


昨日の帰り際の様な雨は降っていないが、空は今にもまた激しい雨が降り出しそうな天気。



嗚呼、どうせなら一層、あの日もこんな天気だったら良かったのに。

そうしたら走って家に帰っていたのに。

なんで、なんで雨なんか降らせたんだ。





***



午後6時。

殆どの生徒は自分の家へと帰宅してしまった。


天候が怪しいということもあり、さほど部活に力を入れていないこの学校は、外の部活も、中の部活も今日は早めに切り上げさせたらしい。




「雨、降るかな。」


朝から空は暗い雲に覆われている。

けれど、一向に冷たい滴を落とそうとはしない。


雨が降ってきたら、少しこの黒い靄が消える気がするのに、
また、水玉模様の白地を持った色白な手が、隣を歩きそうなのに。






「雨、降っちゃうよ…」


「………春日井、」



学習しないんだね、井野くんって。
そんな挑発的な態度で、困った様に笑ってみせる。





「……今朝は、ごめん。」



自分でも何について謝っているのか解らなかった。



「………。」



傘を使ったのも俺じゃないし、別に謝る事なんて無いはずなのに。



「…ごめんね、」




ぎゅっ、と。
冬の寒い空気で冷えきってしまった手に、温もりを感じた。




「傘とったの、井野くんじゃなかった…」



俺の手を握る温もりが強くなる。

下を向いてしまった薄茶色の目が、同色の髪からちらっと覗く。




「……嫌いって言って、ごめんね。」



泣かないで欲しい。

さっきまではずっと雨が降ればいいって思ってた空も、目の前の幼い顔立ちの人からも、滴は流して欲しく無いって思った。




「疑ったり…して、ごめっ…、」


「謝らないで…。」


「俺っ、俺…っ」




言葉で伝わらないなら、体で表現すれば良いって、何処かで聞いた事があった。


「……っ、井野、くん」


「全部、解ったから。」



だから今はこの胸の中で、その涙を閉まって。







***



「俺ね、あの傘使うの、あの日が初めてだったんだ。」



後日、春日井からその話を聞いた。





「学校にまだ慣れてなくって、やっと玄関に辿り着けたと思ったら雨の中帰ろうとしてる人がいて、」


ああ、学校を迷ってたのか。

その姿を想像するだけで愛しさを感じてしまうようになった自分を、今では可愛く思う。



「それでね、なんか捨て犬みたいに背中が震えてる気がして声かけたんだ。」



そう言って、俺の手を握る。



「やっぱりそうだった。」




そう言って、あの日の様に春日井は笑った。




end



--------------

あとがき


"不良×健気"
すごく遅れてしまって
すみませんでした!

「あれ?これって健気なの?」「てか長くgdgdじゃね?w」
……すみませんorz


久しぶりのオリジナル文で、
少々(かなり)戸惑い
気味です←


蜜玲


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