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お題・質問・拍手文
Dこの想いを封印するよ


「綱吉、」






屋上にいるのは、何処か懐かしむ様な目を扉の方へ向けている僕と、その僕を遠慮がちに見つめる綱吉だけ。





「…僕ね、実は付き合ってなんかなかったんだ。」









綱吉の瞳が見開かれる。






「君のクラスの女子なんてこれっぽっちも興味なかったよ。」








じゃあどうして嘘を?

その疑問がそのまま顔に滲み出ている。








「綱吉に嫉妬して欲しかったから。」









「えっ…………!?」






そう、ずっと僕は君だけを見ていた。






あの日からも、あの日より前も。








「君しか見れなかった。」









今自分はきっとみっともない顔をしているだろう…。

好きなんだから、他の人の所になんて行かないで。

そうねだる女の様に。







「…、ど……して…。なんで、今更……っ」








綱吉の眉間に皺が寄り、大きな瞳からは、大量の涙が溢れ出た。








「………ッ俺、だっ…て……、好きだった…の、にっ……もう、もう……」







知ってるよ。



君は優しいから、今の恋人を捨てるなんて事出来ないってこと。



恋人を傷つけてまで僕の元へは来ないってこと。











「うん、だからね、今日僕は












この想いを封印するよ。」











「………………ひば、りさっ………」










僕が扉に近づくと、綱吉も僕の方へと近づいてきた。






「…うぅッ、…俺、俺………雲雀さんの、こと…っ……好き、大好きっ……………でした。」




僕の胸の中でわんわん泣きながら、綱吉はそう僕に伝えた。





「うん、僕も。綱吉が大好きだったよ。」






「………――!………っふぇ……ぅう……」










好き、

大好き、

愛してる、

離したくない。




けれどそれ以上に君には傷ついてほしくない。








「…今までごめんね、」







今まで傷ついてきた分、君には幸せになって欲しい。






「……ぅ…ひば、りぃ……さん!!…ひ…ばりっ…さ、」








例え君を幸せにする役目が、僕じゃなかったとしても。






「………大好き、だったよ。」








そうもう一度胸の中の人物に囁いて、僕は屋上を後にした。















***




一年後、卒業式。










あれから月日が経つのは早くて、もう卒業式だ。




今日は僕の初恋のあの子も、もうこの並盛中学にくるのは最後の日だろう。







あの屋上の日から、僕達は何度かすれ違った。


けれど、あの屋上の日以来、会話を交わした事はない。







綱吉は今日までずっと、順調に獄寺隼人と交際しているらしい。
(草壁が勝手に伝えてきた)




良かった、

と思っていると言えば嘘になる。


けれど、綱吉が今幸せならそれで結局僕はいいのだ。







「ツナヨシー、スキ、」





「…さよならだよ、もう。」




僕は卒業式に参加するでもなく、いつもの様に屋上で黄色い小鳥と昼寝をしていた。


そういえばあの日、綱吉がこの小鳥のことを何か言おうとしてたな…。





「サヨナラー?」





小鳥が首を傾ける。





「そう、さよなら。もう綱吉はここ(並中)へは来ないよ。」










「そんなの、嫌です。」


「……―――――!?」







突然後ろから聞こえた懐かしい心地好い声。


けれどその声には、少し怒りが滲んでいた。








「………雲雀さん、俺…やっぱりダメツナなんです」




「……………?」






卒業式の日にわざわざ自分はダメなやつだと伝えに来たのか?







「だから、俺…。こんな俺を慕ってくれる獄寺くんを傷つけたくないのに、雲雀さんを好きって気持ちを消せないんです。」





そう苦笑いした顔は、この中学に初めて登校してきた時の顔と同じで。






「あの屋上で会った日、本当は帰ろうとしてたんです。そしたらヒバードが頭にとまって、その………お、俺が好きって、言い出したんです。」





「ツナヨシー、ツナヨシー、」




黄色い小鳥は、僕達二人を置いて空へ飛び立った。







「その…、ヒバードに言葉を教えるのって、雲雀さんじゃないですか。……だから、少し、期待?しちゃって…。屋上へ行ってみたんです。」









「綱吉、僕もダメダメみたいだよ。」



「えっ………?」






僕は彼が話をしているのを途中で遮って、彼を抱きしめた。








「君への想いを封印するどころか、どんどん君しか考えられなくなる。」






遠くで生徒達の声が遠ざかってゆくのが分かった。

きっともう卒業式を終えて、一人一人の家へ帰宅するのだろう。







「君に幸せになって欲しいはずなのに、君が他の奴と幸せになるのは嫌なんだ。」





ずっと、言いたかった。






「君は僕の隣で笑っていて欲しい。君を幸せにするのは僕がいい。」







「……ははっ、おかしー。」



綱吉はそう照れ臭そうに笑うと、僕の背中に腕を回してきた。






「俺、雲雀さんが今言った事を伝えるために此処にきたんですよ?」


「え…?」





先程よりも腕に力を込めて、僕の胸に顔を埋めて、呟いた。





「雲雀さんの隣にいて、雲雀さんに幸せにして欲しいんです。」









それは今の僕が一番欲しかった言葉。










「獄寺くんにもちゃんと自分の気持ち伝えてきました。伝えたら、『そんなの、ずっと前から知ってましたよ』って言われちゃった。やっぱり獄寺くんには敵わないですね。」




そう言って僕を見上げた顔は、僕がずっと見たかった大好きな笑顔で…。





「それと、『そんな十代目の気持ちを知っておきながら、今まで黙っててすみませんでした。どうか、今までの分以上雲雀に幸せにしてもらって下さい』って…。」





「そんな事、言われないでもそうするつもりだよ。」






そう僕が言うと、僕の腕の中の綱吉は顔を真っ赤に染めて、嬉しそうに笑った。











「覚悟しておいてよね。」




「はいっ!」







*end*





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