1.始まりは突然に来るもんだ
「なー慧!!慧慧慧慧慧!!ひーまー構えー!!」
「うるせぇ黙れ今戦いに集中中だ」
今ボス倒すのに必死だ!!と唸れ俺の右手と攻撃ボタンを連打する。
「喰らえ秘奥義!!」
秘奥義を繰り出してボスは断末魔を上げて崩れた。
主人公が台詞を残し物語りのムービーが流れる。
「よっしゃあああ!!三度目の正直ようやく勝ったー!」
長い戦いだったとコントロールを投げゲームのエンディングが流れる。
「くぅー!!やっぱりエンディング見ると感動するよな!!よくやったぜ俺!!」
「なー慧ゲーム終わったら構ってよー次の奴貸してやるからさ」
「一樹、俺があそこでゲームなんてゆっくり出来るわけねーだろ。だからお前ん家通ってやってんのにさ」
オレは実家暮らしではない。8歳の頃から親に預けられ施設で暮らしている。つまりガキが多いし一人部屋じゃねーし何かと規制されてるからあまり施設に戻りたくない。
「そりゃそうだけどよーだってお前ここんところケンカかゲームばっかじゃん!!」
「そういうお前も嬉々としてケンカしてたじゃねーか」
「俺は基本平和主義者だから自分の身が危ないと思わない限り暴力はしねーよ」
と一樹、オレの親友はフーと煙草特有の白い煙を吐いた。メントールの煙草だからスッとした臭いが広がる。
オレも煙草吸うかーとポケットに入った煙草を出してテーブルに置いてある一樹のライターを取って火を付ける。
脱色して少し傷んだ金髪に煙草、周りから見れば所謂不良ってグループに分けられるだろう。
否定はしない。街でケンカ売られれば買ってボコボコにしてるし。
「さー慧のゲームも終わったことだし今からDVD鑑賞会すんぞー!!」
「……またかよ」
一樹の右手には世界的大ヒットした児童文学書のDVDを持っている。
「もーハリポタ良いよ!!最高!!俺的には3巻がいいよなー!アズカバン!」
「……(このハリポタ馬鹿が)」
勝手にゲームを終わらせてDVDを再生して映画を見ることになった。
映画が始まればそちらに目が行ってしまうのでいつの間にか2人で真剣に見ていた。
映画も終わりあっという間に2時間オーバー。
ケータイが鳴りディスプレイを見ると顔をしかめる。
「げ」
「誰?オヤジさん?」
「由利だ」
通話ボタンを押せばでかい声が聞こえるのはわかりきったことなので耳から少し離して声を聞いた。
ハンズフリーか。
『あんた一体何時だと思ってんのよ!!早く帰ってきなさい!!』
「…(耳が…)今帰ろうと思ってた」
由利とは同じ施設で共に暮らしてる同い年の女だ。ちなみに高校も一緒クラスも一緒。
1日中ずっと一緒とかどんだけ。
(一樹も一緒のクラスだ)
『とにかく、今この辺危ないんだから早く帰ってきなさい!!』
ブチッと音がして終話ボタンを押した。
「あははー由利ちゃんお冠だね」
「あいつはオレのおかんか。またいつ怖い電話が掛かってくるかわかんねーから帰るわ」
スクールバッグを肩に引っかけて立ち上がった。
「駅まで送るよ」
確かに今危ないし、と付け足す。
階段を降りて一樹のおばさんに挨拶した時に新聞が目に入る。
『連続通り魔少年殺人事件』
今まで殺されてるのは小学生から高校生までの少年しか殺されていない。
鋭利な刃物(多分ナイフだろう)でめった刺しにするやり口らしい。
どんなど変態なんだよ少年愛者?とりあえず殺人狂であることに間違いない。
「玄関(ここ)でいい。オレがそんな簡単に殺られるはずないだろーが」
「そんなこと言うと死亡フラグ立つよ?」
「一樹、」
ちょっと間をあける。
「後は…頼んブッ!!ハハハハハハ!!」
最後まで言おうと思ったけどおかしくなって爆笑した。
「あー腹痛ぇ!!慧ちゃんと最後まで言えよ!!」
「あー!!かっこよく決めるつもりだったんだけどな!そんな台詞言えねーよ。じゃーな」
「また明日なー」
と手を振って別れた。
「終電ギリギリだな」
最終電車は間に合うか間に合わないかの瀬戸際だったのでこれはちょっと急がないと乗り過ごすと思い足を早めたが、走ってホームに行くのは嫌だった。
「近道するしかないな」
大通りじゃないがこの辺りは最初の事件が起きた場所に近かったのでまた犯人がくることはないだろうと思い近道を使うことにした。
この道を使えばあと10分あれば駅に着く。
「…予想以上に暗いな」
今更引き戻ったとしても電車に乗り遅れることになるので行くしかない。
ジャリ、
「……?」
後ろで音がして振り向くとそこには猫がいた。
黄色の瞳が夜の闇には異常に光って見えて目だけが浮いているようだった。
「なんだよ猫か…」
っていうかオレびびってる?という疑問が出たがそれを振り払うように先に進んだ。いくら近道といえども早く行かないと電車を逃す。
「………(まさか、な)」
少し歩くがやはり違和感は消えなかった。むしろ焦りのような焦燥感が来る。
ジャリ、
後ろに誰かいる。
「(もしかしてヤバイんじゃねーか?オレの気の所為であってくれ!!)」
ダッと走り前を見て早くこの場所から離れなければと本気で走った。
「っ!!(ヤバイヤバイヤバイ!!)」
なんでオレこんな走りにくい腰パンなんかしてるんだ!!と自分の格好を呪いたくなった。
ズボンを上げて走りたいが今止まることはできないと走り続ける。
自分が走れば向こうも走って来てこれはもうあの通り魔の犯人しか思えなくなった。
後ろを向きながら走っていたので足が絡まってしまいズサァア!!と顔から転んで右頬に痛みを感じたらそれよりも早く起きなければと立ち上がるも膝が笑ってまた転んでしまった。
「っ離せぇ!!どけ!」
こんな追われて恐怖感を植え付けられていつものケンカだったらボコボコにしてたのに、もう体が石みたいに固まって何もできなかった。
馬乗りに乗られて腕を掴まれ、逃げ出そうと必死に暴れるもそいつの右腕に持ってる銀色の物を見た瞬間血の気が更に引いた。
興奮した息がかかり気持ち悪かった。
「ヒヤッハァ!!」
「うぅわあぁあああああ!!」
左肩に銀色が刺さった。
マジかよ、刺された!!あまりの痛さに頭の中の考えがぶっ飛んだ。
笑ってるオレを刺した奴に憎しみの表情を向けるがそれが逆効果だったのか更に笑いながら顔を殴られ次々とオレの体に穴が空いていく。
「や、やめ…ろ…!!」
聞こえるような、聞こえないぐらいの声で叫んだ。
もう何回刺されたのかわからないが意識を飛ばしたら確実に死ぬと自分を起こした。
耳鳴りがする。目も霞んできた。あぁ、オレ死ぬのか。
もう考えるのも、できない。
ただ最後に思ったのはこいつ地獄に堕ちろ、だけだった。
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