11.結局今日サンドイッチ1切れしか食べてなくね?
時計を見ると8時30分をまわっていた。
「うぁー寝過ぎた…」
1時間寝る予定だったのにプラス1時間半も過ぎていた。
「…やっぱし疲れてんのか」
ハグリッドに顔色が悪いと言われてから身体が怠く感じていた。
いや、ここんところずっとしんどいんだけど。むしろ元気の日がないんだが。
「(医務室行くのめんどくせー…)」
でも行かなかったら次の日がえらいことになりそうだしなー、明日変身術あるし…行かねーとな。
んんーと伸びをして部屋から出た。
「狩野、もうすぐ消灯時間だぞ。何処に行くんだ?」
談話室を出ようとしたら上級生に声を掛けられた。ローブにバッチが付いているから監督生か。
心なしか周りの生徒がこちらを見ている。
「マクゴナガルに1・2年の変身術を見てもらう事になってる。一緒に勉強するか?」
鼻で笑えば監督生が少しムッとした。
周りの上級生はクスクス笑い下級生はなんで下の学年の勉強するのか疑問に思っている。
「…マクゴナガル先生に確認する。行くぞ」
付いてくんのかよ、内心こいつどんだけくそ真面目なんだよ。
ため息を吐きたかったがそういう訳にもいかないのでおとなしくマクゴナガルの部屋まで付いて行った。
「マクゴナガル先生」
コンコンと部屋をノックすればマクゴナガルが出て来た。
「どうしたんです狩野、サイニアス」
こいつの名前サイニアスっていうのか。今更知った。
「マクゴナガル先生、今から1・2年の変身術を見てくれるんですよね?」
「本当ですか?」
目でうんと言ってくれとマクゴナガルに訴えると意志が伝わったのかマクゴナガルはその通りですと返してくれた。
流石マクゴナガル!!めっちゃ空気読んでくれたよ!!
「狩野はずっと日本にいたのでこちらと勉強内容が違うのですよ。送ってくれてありがとうサイニアス」
「…いえ、それでは失礼します」
サイ何とかは苦虫を噛んだ様な顔をして寮へ戻って行った。
大方オレがどっか抜け出そうと考えてたんだろ。
「はー、」
「慧」
名前を呼ばれれば最近見た説明しろ顔。
「医務室に行きたかったんだよ。あいつに捕まったから思わず口に出ちまって。よく出来た嘘だろ?」
これで普通に医務室に通えるわと言えばマクゴナガルがため息を吐いた。
「全くよくそんなことすぐに考えられますね」
「言い訳と嘘は得意でな」
そう言うとマクゴナガルはまた一つでかいため息を吐き出す。この人ため息ばっかだな。
「今日の夜大広間で見かけませんでしたがちゃんと食事は取ったんでしょうね?」
「あー」
「…食べてないのですね。今日何を食べたのですか?」
う、それを聞く?
「…サンドイッチは食べた」
「何個食べたのですか」
「…1」
「慧!!」
個と言う前にどかーんとマクゴナガルの雷が落ちた。
「まったく!!今日食べたものがサンドイッチ1切れとはどういうことです!!ちゃんと食べないからそんな顔が青いんですよ!!」
「…さーせん」
「勉強する時間はまだありますね。ここで少し待ってなさい」
マクゴナガルは部屋から出て行き、しばらくすると帰ってきた。
手には食事を持っている。
「食べなさい」
「リゾット?」
「あなたのことですから噛むものは食べないでしょう」
「あん、えー先生が作ったのか?」
お口に合うかわかりませんよとテーブルに置かれてスプーンを手にした。
「うまっ」
久しぶりに食べる米もうまいしオレの為に作ってくれたのも…あれだ、嬉しかった。
「(母親、ってこんな感じなんだろーなー)」
…って何考えてんだ!!
何親の事なんか考えてんだよ、そんな年じゃねーだろオレ!!
今年16だぞ!?思わず恥ずかしくなって顔に熱が行った。
「慧?どうしたのです?」
「どどど、どうもしてねーよ!!」
…めっちゃ噛んだよ今。
余計に恥ずかしくなって口元を隠した。
あーもう何やってんだ落ち着けよオレぇぇ!
「慧?一人で百面相していないで話してください」
マクゴナガルは紅茶を入れながら今オレが考えていた事を聞いてきた。
「…わ、笑うから言わねーし」
「笑いませんよ。そんな可笑しな事なのですか?」
「絶対笑うなよ!!……は、母親がいたらこんな感じか、って思っただけだ!!」
もう顔から火が出るんじゃないか、ってぐらいに恥ずかしかった。
あーもう穴があったら入りたいとはこのことだ。
「何が可笑しいものですか。母親だと思われて私は嬉しいですよ」
「………」
返す言葉がなくて口の中にリゾットを入れた。
「お母様は亡くなられたのですか?」
「いや…。両親には恵まれなくてな。親らしいことはしてもらったことなんてなかったな」
「…そうですか」
「ま、オレ的には施設行った方が生活良くなったからそっちの方が良かったんだけどな。ちゃんとした飯も食えるし殴られずに済むしー」
紅茶を飲みながら一息ついた。あー煙草吸いたい。
「殴られる!?」
「(あ、余計な事言ったな)…まぁ8年くらい昔に母親の恋人に虐待されてたんだよ。本当の父親とは結婚してなかったみたいだし」
多分父親は不倫相手だったんだろう、昔母親が夕方から居なかったのを思い出した。
所謂キャバ嬢だったんだと思う。
あの恋人からしたら小さい子供がいるのは邪魔なはずだ。
苛々も積もるはずだしそれは自然と弱い子供に向けられる。
凍り付いた様な顔をしたマクゴナガルにそんな顔すんなよと言った。
「向こうにはもっと酷いことされた奴らもいたし」
煙草の火を押し付けられたり性的虐待を受けた奴、それによって兄弟を亡くした奴もいる。
まぁオレの背中にも幾つか煙草の跡が残っていたりする。
「ま、そんな昔の事はどうでも良いんだよ」
「嫌な事を聞いてしまいましたね」
「別に。昔の話だし同じ境遇の奴らいたしそんな気になんかしてねーよ」
それよりかオレはガキんちょの世話するのを思い出す方がよっぽど嫌だと言えばマクゴナガルは笑った。
「飯…うまかった。じゃ、医務室に行くわ…ごちそーさま」
「あなたが食事を完食したのを初めて見ましたよ」
空になった皿を見てマクゴナガルは少し驚きながら満足気に笑った。
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