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至宝の小説
バスデス(『池の鯉』のぺぷちゃんから頂きました!)




姉さん、事件です。

と言っても、実際のところは何が起きようとも姉貴に報告する、などという選択肢は持ち合わせてもいないのだが、そこまで気が回らぬほどの事件は舞い降り、ひくり、不自然に上がる、俺の口端。



「まじかよ…、」


がくり、項垂れ、次に出なければならぬ行動は、シャンプーセットの用意、だった。



≪バスデス≫



ポケットの中の申し訳程度の軍資金、
この無駄な出費により明日の俺の昼飯が野球バカの弁当摘み食いに決定、
その事項に苦渋を飲むより他ないが、溜息一つ、
青い春を当に終えたじいさんに金を渡し、俺は銭湯の暖簾を潜る、



「今日は貸し切りだぞ、」


聴力は優れている、
故に聞こえてきたオヤジにしては高い声に、銭湯業界も不況の荒波に揉まれているのだろうか、とやや気の毒に思うも、そこで終わり。
これが、銭湯で戦闘、という枯れ果てた寒いギャグの始まりとは、知る由もなく。


かぽーん、
風呂特有の謎の音が響き、あとは静寂のみ。

本当に貸し切りなのか、と、その静けさから理解し、やや上昇する俺の機嫌、体温。

家の風呂が壊れたときはどうしたものかと思ったがこの広さを一人堪能できるのならたまには悪くない、
俺は持参した石鹸をタオルで擦り泡立て、まずは右腕から、と手を伸ばす、と。



「先にB地区を泡で占拠しないの?」


「おぉい、びっくりした。」


知らぬ間に背景に人影あり。
人間という生き物は急な出来事には案外冷静になってしまうもの、
今の俺がまさにいい例、
隣で頬杖なんてつきながら俺の顔をほんのりと覗き込むこの男にどっきり。



「お前…ヒバリ、か…?」


「何で股間に話しかけるの?」


なぜだろう、
少し、ほんの少しの気の緩みだったのか、視線を落とせばばちりと支配するのは露わになる分身。
こんな公共の場で包み隠さず曝け出しているのは流石風紀委員長様、けれど、どうなんだろう、このサイズでタオルを装備せずに挑むのは。

別に俺だって大きくはない、し、こいつだって小さくはない、でも、晒すにはあまりにモラルがない。

なんだろ、これ、あれだあれ、並盛。

思わず神経はヒバリの息子に一点集中、
そんなに見つめないでよ、とかなんとか言ったときにちょっとだけ並盛を卒業、
本当にいつでも好きな学年なんだなぁ、なんて。

ぼんやりと意識が持って行かれた最中、せっせとヒバリが俺のB地区に泡を乗せ満足していたが、やっぱり意識が持って行かれていた俺は気付くことなく泡を流し、浴槽へと歩を進め、
あ。という声も入らない、
じっくりことこと、そぉっと足の爪先から徐々に浸り、
ふひー、
肩まで浸かればもう安泰、
緩んだ口元から息が噴き出た。



「あれ?獄寺?」


と、背後から聞こえてきた間抜けなそれは知っている、
癪なものだが仕方ない、と振り返ったこのときの自分を叱咤してやりたい、と思う頃にはもう遅い。



「野球ば、が!?」


「こんなとこで会うなんて運命なのなー、」


そこは相場で考えて奇遇、だろ、なんでそんなウエイト乗せやがるんだ、話が反れた、
なははー、といつものアホ面を押しだし首にタオルなんて巻いちゃって、
おいおい、それで股間を隠せよ、なんで風呂でマフラーしちゃってんだよ、

てかなんだそのでかさは、
お前は化・け・モ・ンか、目の前に珍獣ガメラがいる!!



「お前には良心ってもんがねぇのか!!」


「ん?よくわかんねぇ。」


ざばぁ、
立ち上がることにより水しぶきが波打ち、俺の股間をガード、もちろんタオルで隠すことだって忘れない、
これがあるべき姿だくそ野郎共!!
人差し指を向け言い放ってやっても、きょとん、首を傾げられて。

ひたひた、
浴場特有のタイルを踏みしめる音にて、ヒバリも近づいてきた、と思うや否やむすりと眉を顰め、群れるな、と言う。

こんな場所に来ておいてお前何言ってんの?

どこまでも常識に縛られぬこの男に、なんとなく興が冷めた俺は仕様もなく再び浸り、
さすれば、なぜか両脇を挟まれる。
おいおい、ここけっこう広いのにかたまるなよ、散れ、散りやがれ、むさいし熱い。



「ねぇ獄寺隼人、見て、僕こんなに飛ばせるんだよ、」


「お前は子供か。」


ぴゅー、と綺麗な放物線を描き、向こう側の富士山まで飛ぶのは水鉄砲。
ふふん、と鼻を鳴らしては自信満々に俺に見せつけてくるこいつはたしかに子どもの日に誕生したのだろう、

キミの甘い蜜だってあれくらい飛ばしてみせるさ、と、よくわからないことも口走り体をすり寄せてくるその感触が少し気持ち悪い。

あー、タバコ吸いたい。

汗とお湯で額に貼り付く前髪を掻き上げ思えば、くぃくぃ、腕を引かれ、
引かれれば向くのが道理、
何だよ、
悪態と一緒に視線を送れば、どこか頬を膨らませる野球バカで。
湯でふやけて膨らんじまった?
はて、と首を傾げてしまう俺はシカト、
なぁなぁ獄寺ー、とどこか甘えた声を出し。



「風呂の中で空気出たら気泡出るだろ?繋がってるときにぽこぽこ出てきたらなんかやらしくね?」


「おならの話か?水面に出た瞬間に気泡が割れてガスのにおいが出る、今したらお前と一生口きかねぇ。」


野球バカのくせになんだってこんな遠まわしな言い方をしやがる、
あれか、それをするための駆け引き、みたいな。

猿はこうして知識を得て人間に進化したんだな、
感心に頷けば、ぶくぶく、気泡。

しやがったのか、こいつ、しやがったのか!?

慌てて顔を上げ、睨みつけてやっても、変わらぬアホ面。
反省の色すらねぇとは…!!

一発くれてやろう、と拳を握ったところで、おかしい、俺の股間を隠すタオルがふわふわふわふわ。



「獄寺のとこだけ泡風呂?いや、もしかして…しちゃったのな…?」


「どっちもありえねぇっつの、ってふぎぁーーー!!」


ゆらゆら揺らめく何かの影はエイの如く。
俺の股間目がけてゆっくりとしかしたしかに流れてくるそれがタオルの中に入り込んだ瞬間、
ざばぁ!
エイは滝をつくりお湯の飛び散ることこのうえなし。
俺は捲れたタオルを一生懸命抑えるばかりだが、てか何このスカート捲りされた女子の気分。



「水もしたたるいい男の登場です☆」


ぴし、
額に手を添え瞳を伏せて、現れたのは黒曜在中のはずの六道骸。
が、こいつが現れたことは今どうでもいい、それよりも問題は…、

なーんーでー水しぶきが大事なところを隠さない!?
むしろ水しぶきがこいつの股間を避けているような!?
というか水しぶきがそれをひきたたせるためのフレームに!?
っていうか…、



「でか、でかでかでか…っ、」


「あぁ、僕のイケチンにメロメロですかね?」


クフフ、隼人くんのおませさん、と、仄かに頬が染まっていたのは熱気か羞恥かはたまた。
後者でないことを祈りつつ、これ以上は酷だ、と視線をそらせば視界に入る、ヒバリ。

そういえばこいつら仲悪かった!

いつもの標的を見つめる顔よりもっと怖い、鬼の形相携え骸を睨みつけるヒバリに気付き、おや、なんて、おそろしくのんきなやつだ。



「その汚いもの、隠しなよ、モラルがない、風紀が乱れる。」


「おやおや?嫌みのつもりかもしれませんが僻みにしか聞こえませんよ?」


「てか全員隠せよ。」


なに?銭湯ってこういう場所なの?だったらもう二度と来ませんが。
もうやだ、
沈む気持ちと同様にぶくぶく、顔を沈めて半分までいったところ、がらがら、何者かが来訪したらしい。
もう上がろうかな、
行き違いを目指して上体を上げ、目を見張る。

あれは。



「ふーん、これが銭湯ってやつかー、」





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