至宝の小説 白蘭先生のめくるめく日々(『池の鯉』のぺぷちゃんから頂きました) Side:白蘭 どうもこんにちは! 僕は並盛幼稚園の新任教師、白蘭。 子供が好き、という心持ち安易な理由からこの職についたわけだけど…、 なんと、子供たちよりも気になる、否、好きなものができてしまいました。 園児の中でも一際目立つ存在、雲雀和音くん、 女の子にはモテるしなんか僕も理解できないような単語をぺらぺらと口走るしすでに人生悟ってる空気あるしな一般で言うスーパー園児なんだけど、 そんな彼を時々お迎えに来る、おそらく、お兄さん。 銀の髪にわぉくんとお揃いの翡翠の瞳、キメ細かい白い肌は眩しくて。 『あー、先生若いのに大変っすね、俺ガキ大っきらいなんですごいと思う。』 あれはいつのことだったか、 女の子に追いかけ回されなかなか教室から出ることができなかったわぉくんを待つ彼と交わした、初めての会話。 正直、時々姿を見るだけでどきどきと鼓動は高鳴っていた、 だって、とても、綺麗なんだ。 調査の結果、わぉくんのお迎えパターンは二つ。 どうやらわぉくんにお兄さんは二人いるらしい、 一人はわぉくんとそっくりなお兄さん、 もう一人が、僕の想い人。 「うぅー、恋、かぁ、」 「鯉?また渋いですねぇ、まぁ園長に頼んでみたらどうです?」 「違うよ!恋!胸どきどきの恋!正ちゃんのおたんちん!」 「ちょっと…園児たちがまねするから変なこと言うのやめてくださいよ…。」 園児たちを送りだしたあとは教室の掃除。 同じ新任教師であり、友達の入江正一くん、通称正ちゃんと少しのおしゃべりと共に励むのは毎日恒例のこと。 箒を手に唸る僕へ、適当な相槌を打つのもいつものことなんだけど、今日は少し違ったみたい、 一拍の間の後、僕の鼓膜をびりびり。 正ちゃん耳元でがならないでよぉ! きーん、頭の中に響く音から両耳を塞ぐことで逃げようとしたけど、逆に閉じこもり、ぐわんぐわん、目の前の正ちゃんが揺れる。 「恋!?何言ってんですか!?白蘭さんが!?自分さえよければいい白蘭さんが!?」 「ちょっと正ちゃん僕のことそんな風に見てたの!?」 あんまりにも酷くない!? たしかにたまに園児たちのおやつ食べちゃうときもあるけどさ、だってプリンおいしいし? でもでも!そんなときは決まってわぉくんが気にしなくていい、って自分のおやつくれるもん! やっぱりお兄さんが天使だと弟さんも正しき道に進むよね〜。 もう一人のお兄さんはどうだか知らないけど。 ふむふむ納得、と、明日のおやつは何だろう、とうきうき掃除を再開させた僕。 けれど、それを許してくれないのがインテリ正ちゃん、 掴みかかるような勢いで詰め寄り、ずり落ちるメガネを何回も押し上げて。 「誰です!?その人が不幸になる前に…じゃなくて…まさか人妻じゃないでしょうね!?」 「人妻じゃないよー、やだなぁ。名前は知らないんだけどね、いつも雲雀和音くんを迎えに来ている…銀髪の天使だよ…、」 「あぁ、獄寺隼人さんですか、完全に人妻でしょ。」 「え!?」 「だっていつも娘さん背中に背負ってるじゃないですか。」 え、あの子妹じゃないの!? いつも着ている制服、 あれはたしか並盛高校のもの、 と、いうことは、高校生だ、とはわかってたのに、まさか子持ちとは…、 …でも大丈夫、僕は受け止める、よ…、 「だって、初恋だから…、」 「白蘭さんってエゴイストなとこがありますよね。」 エゴイスト?何それ?僕かたつむりじゃないし。 わけのわからないことを言う正ちゃんのことはもう面倒だからシカトする、 けど、感謝はするよ、 彼のこと、少しわかったから。 兄弟は他二人、 娘さん一人。 わぉくんの送り迎えはお兄さんと兼用で、娘さんのことは三人で面倒見てるんだね、きっと。 ということは旦那さんってすごく無責任なんじゃ? 甲斐性なしってやつ!? 許せない…! と、いうわけで。 別にね、尾行とかじゃないからね、ストーカーでもないから、 現在地は並盛高校の目の前にある公園。 ベンチに座り、少しでも会話できたらなー、とか思って待ち伏せ…じゃなくて空を飛ぶ小鳥さんたちを見ながらぼんやり作戦を立てていた、それだけ。 でも、突如現れたのは、愛しいあの子。 僕の心の準備もおかまいなしに、曰く娘さんを背負い、歩む。 お散歩かな、 今の時間はおやつ時、園児たちがみんなお昼寝する時間だね、 あ、ちなみに今日僕はお休みだから、ずる休みじゃないからね? なんだかよくわからないけれど、言わずにはいられなかった言葉を並べて、また視線は隼人クンへ。 娘さんとセットで可愛いよぉ、 自然と口元が綻んでしまった瞬間、僕は自分の目を疑うことになる。 いや、だって、おかしいよ、 隼人クンの隣を歩く、一人の男。 指定とは違う学ラン、 男らしい出で立ち、 というか、あのリーゼント、なに。 まさかあんなコワモテが旦那、なんてこと、ないよねぇ!? うぅ、と、若干刺激された涙腺を袖で拭うことにより慰め、とりあえず尾行、じゃなくて、様子を見ることに専念、 慌てて木の影に隠れて動向を待つ。 「はややー、ちゅんちゅんねー、」 「あー鳥だなー。」 「はややー、わんわん!」 「あー犬だなー。」 もう少し愛情を持った子守りをしてあげて…!! なんていうの?熱がない、熱がないんだよ! 対象を小さな手を懸命に伸ばして指差す娘っ子に見向きもしないでぽっけに手を入れながら相槌だけを返す。 そんな姿に流石のお父さん(仮)もあたふたしちゃってるし…。 というか隼人クンのこと、はややって呼んでるの? すごく可愛いし!! むず痒い気持ちでいっぱいのまま、とにかく様子見続行。 「おい草壁、あいつまだ終わんねぇのかよ、補習。」 「ほ、補習ではありません!委員長は自分の足りないものを補おうと自ら進んで受講を…、」 「足りなかったから受けさせられてんだろ。」 「ですがそうなると沢田さんも…、」 「10代目は進んで受講なさってるんだ、」 なぁに?この平行線な会話は。 というか補習って全員が受けるものじゃないの? 僕毎回受けてたけど。 よくわからない、と首を捻った瞬間、 うー、と娘っ子が唸ったかと思えば、口をむぎゅー、と噤んで、 あ、これあれだ、 僕が気付いたときにはすでに遅く、愛らしい表情は歪んで、すぐに聞こえてきた、鳴き声。 「びえぇぇぇえええ!!ぱーーぱーー!」 「ぎゃああ!うっせぇ!!」 「ぱぱーーーぱぱーーーーー!!」 「お嬢が委員長を…!」 隼人クンの耳元で大声で泣き出す娘さん、 耳を塞いでもあまりに近い距離は受理を許すほかなく、直接きんきん聴覚を攻撃する。 小さなおててをぎゅっと握りしめてお父さんを呼び続けるその姿に、僕はなんだか言い様のない気持ち。 だってさ、甲斐性なしのくせにこんなに娘さんに好かれてるって、どういうことなの? 僕の方が絶対に可愛がるし大切にするしそしてイケメンだし!! むぅ、と口を曲げて、どうしようもないから念を送る、と、 あれれ? 浮かぶ一個の疑問。 今リーゼントの人、お嬢って言った? ていうか、委員長? それってつまり、この人は旦那さんでもなければパパさんでもないってこと、だよねぇ? 「大体あいつのどこがいいんだよ!?」 「それは奥方が一番知ってぐぶぅ!」 「お前黙れよ。」 靄が消えて晴れる寸前、 青筋を立てながら怒りを空にぶつけるよう叫ぶ隼人クンにによによ、口元を思いっきり緩めて咥えてる草を揺らしたリーゼントサンは割れた顎を殴られて。 この発言、やっぱり隼人クンは旦那さんとはうまくいってないんだ! 確信に僕、有頂天! ふよふよ、なんだか空も飛べそうな気持ちの中、変わらずに響く泣き声。 ち、 一個舌打ちして、隼人クンが取り出したのは携帯。 あいつは使いたくねぇけど、と瞳を細めて、すぐにダイヤル、 短い会話ですぐにそれは切られ、おんぶ紐を緩める。 え、まさか、旦那さん召喚…? こんなに娘さんが呼んでるんだ、可能性はある、 しかもこの態度! うわーん、これって確定申告!? 心一変、 天国から地獄に落とされた僕のピュアハート、 ずずーん、 沈むそれと比例して、その場にしゃがみ込めば聞こえてくる、軽快なベル。 これはバージンロードのあれ? ううん、違う、自転車のベルだ。 「隼人くふーーん!僕、来ました☆」 「おー、悪いな、骸。」 なんか頭の天辺に変なヘタつけた男がきたーー!! なに!?語尾に☆なんてつけちゃってさ、むかつくんだけど! たしかにちょっと、僕ほどではないにしてもちょっとだけイケメンかもだけどさ、 骸、と呼ばれた彼は自転車から降りると隼人クンに駆け寄り、くふくふ笑って綻んで。 隼人クンの腕の中で泣き続ける娘さんを覗き込み、おやおや、なんて。 お父さん気取りなわけ!? ひょっこり出てきてなんなの!父親面しないでよ! 苛立ちは手を添えていた木にみしみし、悲鳴を上げさせたけど、そんなのどうだっていい、 身長差がお似合いだとか、そんなことミジンコにも思ってないんだからね! 隼人クンに何かを言われ、骸クンは娘さんを受け取る、 よしよし、なんて数回上下に揺らして、にっこり微笑んで、はやちゃん、泣きやんでくださいねー、とかほざいた瞬間、僕は目を見開く。 「むく、りょしゃま…?むくろしゃまーー!」 「クフフ、いい子ですね、」 「よし、泣きやんだ。」 ぽろん、 零れたのは一滴。 ささやかなガッツポーズを見せる隼人クンが背景になってしまうほど、僕は動揺した。 娘さんはその姿を捉えた途端、ぴたりと泣きやんで、次いでは骸クンの首に手を伸ばして微笑んでいるではないか。 それは僕に、この人がお父さんなんだ、と、叩きつけるには十分すぎた。 きゃいきゃいはしゃぐ娘さんの声は遠い遠い、あのお山の向こう側、 違う、僕の意識がそっちにいっちゃってんのかもしれない、 そう、だから、近づく影に気付くことができなくて。 「すいません、写真いいですか?」 「は…?」 声をかけてきたのは現在最高の憎悪の対象。 にっこり笑って彼が差し出してきたのは携帯で、画面はカメラモード、 なんで僕が! むかつきを包み隠さずぶつけてやろうとしたけど、叶わなかった、 骸クンの背後、ひょこりと顔を出して、あれ、先生?と覗き込んでくる翠の眼が綺麗過ぎたから。 「すんません先生、こんなこと頼んじまって、」 「ううん、大丈夫、だよ、」 「クフー、ささ、隼人くん、僕に寄ってください!」 「これでチャラだからな…、」 申し訳なさそうに少しだけ頭を傾けてくる。 大丈夫なんて嘘だけど、キミが先生なんて言ってくれちゃったから、断れなくて。 骸クンは嬉しそうに嬉しそうにほんのり頬を赤らめて隼人クンの腰なんて引き寄せちゃって!! 片手にはどこかうっとり彼を見つめる娘さんを抱いていて、 これ以上の幸せ者はいない、と断言できるほど、憎い。 ちょっとリーゼントサン、あなた回復遅すぎるよ!隼人クンの一発どんだけクリティカルヒットだったわけ!? 恨めしさがそこかしこに飛んでいく僕には隼人クンの呟きなんて届かなくて、 焦点を合わせれば、カメラ越しでも憎たらしい光景。 「はい、親子☆」 カシャ。 わけのわからない掛け声のち、反射的に押してしまったシャッター。 僕のこの手が憎いよぉ! なんだよこの人、普通チーズでしょ! むかむかむかむか! 僕の血管の悲鳴なんか知る由もないこの人はありがとうございます、とお礼と共に駆け寄ってくる、 が、グーの拳を作る隼人クンの制裁はその頭に直撃、 そのままヘタを掴み、骸クンの顔を見つめるその顔はとんでもなく怖い。 [*前へ][次へ#] [戻る] |