僕の灯を君に、十六夜。 第九夜∞溺死 いけませぬ、いけませぬ そして貴女はわたくしの傍らで けらけらと笑ふのです。 いけませぬ。 けふは小雨がぱらぱら 長屋の隙間から漏れ出して居ります。 そして貴女の黒髪 わたくしの足と絡めたふくらはぎ 白ひ木綿の着物が透けて 肩から程よく下ろした襟が一層麗しきこと夢かうつつか。 わたくしは今宵も貴女を抱ひて、 麻痺にも似た痙攣を抑へ笑ふのです。 共に笑ふのです。 片時も離さぬ様 わたくしは貴女から抜きませぬ 勢ひを増した雨が長屋に降り注ぎ それでも止めなひわたくしたちは もう間もなく死ぬのではないかと そう思へてなりませぬ。 長屋に甲高く響く声が 衣擦れの音が 溶合ふ身体の音が 猥雑と言ふ死へと導くのではないかと。 共に逝くのです。 雨に溺れ 愛に溺れ 貴女に溺れ [*←][→#] [戻る] |