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僕の灯を君に、十六夜。
第六夜∞注射針
肌寒い夜明け前、アタシは彼の部屋に居た。
少し明るくなった空に北斗七星が
ちらちらと光を放っていた。


「いくよ…」


そう言って、彼は
アタシの耳たぶに針をあてがう。


「うん」
アタシは軽く頷いて、二度目の洗礼を受ける。


アタシ達が付き合って、今日で一ヶ月。
ついさっき、
アタシ達は初めてお互いを感じ合った、
一ヶ月目の痛い想い。


それはまるで、
血が抜けるように痛い、注射針の形をしていた。
それが一度目の洗礼。


注射針の傷みは、
彼の温かなぬくもりの中に消えていったけど。




ぶすっ。




鈍い音が響く。


彼は私の右の耳たぶに一気に針を刺した。
アタシは痛みを堪えて、「ありがとう」と言う。


彼とやったら、ピアスを彼に開けて貰おうと決めていた。
彼を忘れたくても、これで忘れなくしてやるんだって。


「俺にもやってよ」
突然、彼がアタシに針を渡して言った。
お前だけ、痛い思いするなんてイヤだし。
俺も、お前の事、忘れたくないからさ。


無意識に、
痛みを表情に出していたアタシを気遣って言ってくれている風だったけど、
嬉しかった。


刺す針も、注射針のように鋭く。
彼は北斗七星を眺めながら。
アタシは彼の耳たぶに針をあてがう。


三度目の洗礼は、彼の左の耳たぶ。
あてがったら一思いにやってしまう。
そして私たちは微笑んだ。


「痛かったよね」
注射針はピアスと共に想い出の中に刻み込まれた。

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あきゅろす。
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