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僕の灯を君に、十六夜。
第十六夜∞最期
雨は次第に豪雨へと変わっていた。


人込みでいっぱいの質素なプラットホームに
突っ立った侭の僕と君。


飛び交う声も、雨音も
余韻を全て吸い取ってしまったかのように
僕らの間には真っ白な空気だけが纏っていた。


赤く腫れた瞼に、さらに滲む透明な液体を
拭う事も忘れ
又はそれすら気付きもしないでただじっと
僕の瞳だけを見つめる君。


込み上げる幾つかの感情が
歯痒さを増し


ねえ 僕は 君に何て言えばいい?


帽子を深々と被り直し、目線を下に逸らす。
灰色のコンクリートで覆われた地面に
君のすみれ色の靴が鮮やかに目に止まった。
一瞬の隙をついて、そこへ大きな水滴が滴り靴を濡らす。


わかってるよ…
孤独になるであろう事も、
君を失う事の怖さも、
これから背負う痛みも、


今まで
無下にしてきた、想いの半分も伝えられず
いつか来る、別れなんて無いと想って過ごした


永遠や未来や約束も
僕らは聡明にも信じきった信者のように
救われる事を願い
乞い
そして堕落する。


けれどいつか思い知る。
信じただけでは手に入らない事も
別れが突然やってくる事も、
その時に限って何も出来ない自分になっていた事も。


わかっているんだ…
あの日、誓い合った事は確かに聡明で
泣いている君は確かに可哀相で
だけど


ねえ 僕は 君を守ってやれんの?


愛してる事も真実で
離れたくないのも真実で
君を信じてるのも真実で
溢れ出る言葉も偽り無く
抱き締める腕の重みや
重ね合う体は潔白の意図を


それでも


ねえ 僕は 離れてしまうの?




地面が小刻みに振動する。
汽車が煩わしい大きな音と共に来たのだ。


下げていた目線を上に戻すと
やはり君はそこに確かに居て
笑って居る。


「いってらっしゃい」


胸に響くその柔らかい声は
今まで聞いた君の声とはどこか少し違っていた。


こんなにも…
ねえ 僕は…


背中を押されるように車内に潜り
鉄格子で隔てたドアから身を乗り出す。
ことさら君の顔をずっと見て居たかったのは
君の声をずっと聞いて居たかったのは
君の鼓動を感じて居たかったのは


君を…愛して居たかったのは。


「ずっと好きだから」


声を上げず泣く君に
最期の言葉を君に残し
僕は最果ての地へ向かう。
やがて汽車は走り出す。
蒸気と汽笛と金属音で、君の尊い最期の声は聴こえなかった。






残心を残し
君を想い
君を想い
最期に君を想い続け
僕は旅立つだろう…





そして
最期には君のもとへ…

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