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僕の灯を君に、十六夜。
第十二夜∞蝋燭


パチッ……パチパチッ…


静まりかえった遊園地のような夜の公園。
夏なのに少し肌寒いくらいのエアーコンディションは
私達にとっては最高だった。


ボトッ。


「…あー落ちたぁ。」


風も無く、穏やかな夜だったので
私達はコンビニで花火を買った。
線香花火を何本も。


「やっぱヘタだなーお前」


冗談気に言う彼の声や吐息がいとおしくて
私は泣きそうな程、いとおしくて。


彼とは付き合ってもう半年にもなるのに、
未だに私達はエッチしてない。
すごく大事にしてくれてるって、痛いほど伝わってきて、
すごく嬉しいんだけど…
私は「すき」を抑えきれない。


私の中で連鎖反応でもしているかのように、
「すき」は日に日に増殖していくの。
好きで、好きで、好きで…


繋がりが欲しいと念じた夜。


線香花火を沢山買ったのも、時間稼ぎのため。
彼ともっと一緒に居たい。
独りになるとまた、「すき」の増殖は止まらなくなるから。


「あ。これで最後じゃん」


最後の一本を手にとった彼は無邪気に喜ぶ。
「早いモン勝ちだもんネー」


私は口元だけ笑うと、最後の線香花火に見入っていた。
蝋燭の火をつける。
線香花火が花を咲かせるようにパチパチと音を立てて笑う。


私もあの蝋燭みたいに、いつかドロドロに溶けて
互いの粘液を伝わって彼の細胞に深く浸透出来るのだろうか。
浸透圧みたいに。


ボトッ。


「あっ!」
「…早く落ちちゃったね。」


これで彼と居る時間が終わってしまう。
いつか来ると解かっていながらも、その呆気なさに戸惑う。
もう少しでも一緒に居られる方法を、
無い思考回路を巡らせて考えてみるけど、やはり見つからないんだ。


「どうしたの?元気ないよね。最近。」
その姿を見、彼は不機嫌になって問いただす。
「つまんなかった?」


「違うよ!全然楽しい!」
そんなんじゃないよ。
でも…私は何て言えばいいの?


「じゃあなんでそんなに元気ないのさ?」


今度は心配そうに、彼は私の顔を覗き込んで言う。
私の頭に無意識に置かれた彼の右手から、
彼の体温が深々と伝わってきて、私は顔が火照るのを感じる。
「も…少し一緒にいたいかな…って…」


彼ははっとして私を抱き寄せる。
「寂しかったの?」
マジになっている声の震えが、ぴったりとくっついた身体から
振動で伝わってきた。
「ゴメン。気付かなくて…」


肩に回されたその腕の重みも、
振動で伝わる声や息使いも、
その優しさも全部やっぱり好きで堪らなくなる。


「繋がりたい。」
密着していた身体を無理矢理押し戻して、言う。
夜の静けさとは反比例に高鳴る鼓動。


すると彼は笑って、また私を抱き締める。
「待ってたんだよ、お前がそう言うの。」


温かに伝わる彼の言葉と体温が、さらに拍車をかける。
やっぱり…すき…。


「ウチいこっか」




私達は蝋燭の様。
二つの固体から炎を燃やして、
ドロドロになってゆく液体同士は粘膜と一緒に混ざり合う。


儚く、蝋が無くなろうとも。

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あきゅろす。
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