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僕の灯を君に、十六夜。
第十一夜∞トラウマ
「あーあ」


海の潮臭い匂いが、車の少し開いた窓の隙間から漂ってくる。
夏の陽射しが水面に反射してキラキラ眩しかった。
カーステレオのボリュームを最大にして、あたし達は海岸線を走っていた。


「なーんで夏休み前に別れちゃうワケ?あたし最悪ーぅ」
そう言いながらハンドルを強く握り締める。


あたしはいつもそうなの。
付き合って一ヶ月にも満たない。
もって一ヶ月がやっとで。
別れる理由は、たいがい決まってる。
…ただの浮気。
浮気くらい、許しちゃえばいいのに…。


「ろくな男じゃねーんだろ。別れて正解だーって。」
助手席からの声。
彼はあたしの親友の男。
ずっと昔からの友達。


「てーか、おまえ、別れたんなら俺と遊べ。」
別れた気晴らしがてら、なんて言いつつも
今日遊ぼうと切り出したのは彼だった。
いつも強引なんだよ…


「ハイハイ。」
そう言ってあたしは煙草に火をつける。


あたしは彼との仲を壊したくない。
前に一度、好きになりかけた事があった。
でも…
「好き」って言葉を口に出しちゃうと
見えない何かが壊れて崩れてしまう気がして…


あたしは、今でも彼を好きなのかも知れない。
好きじゃないのかも知れない。
好きになっちゃいけない気がして。
それでも大切。
彼は特別。
…けど友達。


あたしの想いはこの煙と共にいつの間にか消えちゃうんだ。


「なんでいつもさー…」
彼も煙草に火をつけ、白い息を吐き出しながら言った。
「おまえってばバカな男とつきあってんの。」


チラリと隣を見ると、いつになく深刻な面持ちの彼がいた。


「俺だったら、おまえを大切にすんのに。」


一瞬、ハンドルを握る手が緩んだ。
何を言ってるの…?
あたしは…


「好きなヤツにいつも彼氏の別れ話聞かされる俺の身にもなってみろよ」


…すき?
なの…?
どうしよう…
ドキドキが止まらない…
あたしもきっとすき…


一ヶ月。
浮気。
友達の壁。
君なら壊してくれるのかな…?
あたしのトラウマを。


「ねぇ聴いてんの?」


そう言って彼はあたしの顔を覗き込む。


ダメ。
そんなに見ないで…。
好きになっちゃう…完璧…。


心臓が高鳴る音が聴こえてきたけど
カーステレオの音楽で紛らわせるのがやっとだった。
もう、後には引き返せない。


「あたし当分彼氏いらない。」


彼の方に顔を向けると、
あと少しでキスしてしまうような距離だった。
顔が火照る感覚が全身に伝わってたけど。


「やっぱり?」


少し残念そうに彼は言う。


「ダメだと思ったんだよねー」


笑いながら必死に誤魔化す彼の仕草がいとおしく思えた。


「だって彼氏より大切なんだもん。」


君が。
何よりも君が。


煙草の煙で消そうとしたあたしの想いは
君の煙と同化する。
体を重ねるよりもきっと
あたし達は一つになれる気がするんだ。


「あたしもすき。」

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あきゅろす。
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