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僕の灯を君に、十六夜。
第十夜∞牡丹
「…え?」


眩しい午後の夕陽と肌寒い風が身に染みる。
キャッキャという女子の煩い声が響く九月も半ばに入った学校では、
放課後はいつものように学園祭の準備で忙しい。


その教室の一角で、実行委員のあたしと彼は黙々と作業をする。
窓際にもたれ掛かった背中が、ひんやり冷たかった。


「牡丹だよ。似てない?」


彼が言う。
あたし達が作っていたのは、紙の華。
薄っぺらい紙を何重にも折って、花弁を広げてゆく。


一枚、
また一枚と…。


「ボタン?こんなんだっけ?」


ピンクの花弁を広げながら、その華をまじまじと見る。
ぼてっとした大きな華。
大きな…。


そんな事を始終考えていると突然、彼の手があたしの目の前に伸びてきた。
手には白い華を携えている。


「牡丹、似合うよ」


そう言って彼は、あたしの黒髪の左横にその牡丹をピンで留めた。
椅子に座ったあたしは息も出来ない位の感覚に襲われる。
目の前には彼。
夕陽が窓から差し込む。
煩い誰かの笑い声。
微風が長い髪とカーテンを揺らす。
あたしの心も…揺れる。


それを知ってか知らずか、彼はあたしの目の前に居座っている。
だめだよ…
顔が…近いって。
心臓の音とか聴こえちゃいそう…。
顔が赤いのは背中から感じる夕陽のせいにして。
心臓の高鳴りは吹き込む風で紛らわせて。


「五月三日だろ?誕生日」


「…え?」


突然の問いにさらに顔が熱く火照る。


「なんで知ってるの?」


驚きの表情を隠せないあたしに一瞬微笑んで、
彼は自分の作り上げた牡丹を両手一杯に抱える。


「ハイ、全部君に。」


色とりどりの牡丹。
あたしは牡丹に埋もれながらもまだ、状況が飲み込めない。


「五月三日の誕生花は牡丹なんだよ。やっぱり似合う」


揺れる教室。
揺れるカーテン。
揺れる思い。


…揺れる影たち。


何重にも花開いた牡丹の花弁のように
あたしも何重にも咲き誇りたい…。
そして大きく、華開くんだ。


君と。

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あきゅろす。
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