お前に溺れた俺の蜜 蛍 しかし、楽しい日々は長くは続かなかった。 都での反乱事に幾人もの兵を徴収していたのだ。 ちっぽけなこんな島にまで、令状が届く。 雪が降り注ぐ旅立つ日、胡蝶の姿はなかった。 胡蝶を探しに、島中を走り回った。 俺が走る度、胡蝶との思い出が、ガラスの破片に映したように 幾つも、幾つも、重なり合い、触れ合い、雪の結晶までもが重なり、 透明な光を放っていた。 胡蝶、胡蝶、俺の一番大切な人…… 広大な海を見渡せる、一番広い場所に、雪に埋もれ、胡蝶はいた。 俺と二人で、よくここで花火をしながら、星を眺めた場所。 胡蝶は振り向きもせず、ただ一心に海を見つめていた。 「海の向こうに、あなたの世界はある?」 突然の問いに驚いた。 胡蝶は何を望んでいるんだ? 何の言葉を待ってるんだ? 俺の答えは、すでに有ったのだ。 でも、肝心な時に素直になれずに、俺はまったく違うことを言ったんだ。 「七年後、この場所でまた逢おう……」 胡蝶も俺も、これから離れて暮らさなければならない。 あえて、言わないほうが良かったのかもしれない。 もし、言ってしまったら、胡蝶は一人で七年もここで… 胡蝶を傷つけたくない。 これが、俺が、胡蝶にしてあげられることだ。唯一の… [*前へ][次へ#] [戻る] |