〜宛メメント 十字架 「君は、泣けない程の十字架を背負っているのか。」 ユヅキの、冷え切った言葉の刃。 あたしは何も否定しない。 でも肯定もしない。 皆、何かを背負って居るじゃない。 あたしは、別に、こんなの、どうって事無い。 だって、自分で、決めたんだから… 「泣けないのなら、代りを求めれば良い。」 ユヅキの灰色の眼が、悲しみを帯びていた。 その眼はあたし一点だけをじっと見据えて、優しく、切り刻む。 「それって、つまり、あんたって事?」 ユヅキの冷静さに些か腹が立つ。 ムキになったあたしは、まるで子供だ。 何かに餓えて、体が冷え切って、毛布にも包まれない、非力な子供。 「お前が望むなら、好きにすれば良い。」 それからはよく覚えて居ない。 時計の秒針が1秒を刻む間に、あたしの思考と身体は直結しない自動人形のように機械的な動きをする。 泣けない代り、って何? 泣く場所って何処? 本当に居るべき処は? ボロアパート?ベッドの上?男の腕の中?バイト先? それとも… ソファの上で、ユヅキの身体に重みを掛ける。 ユヅキが組み替えた足を戻すと、その上にあたしが乗る。 首に腕を回しながら、スカートをたくし上げる。 その刹那、彼は言った。 「君は、それを望んでいないだろ?」 ――君が本当に望む物、それは俺じゃない。 [←] [戻る] |