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〜宛メメント
機械






ピッ…ピッ…ピッ…


機械的な電子音。

雫の滴る、薬品の匂い。

部屋の中は張り詰めた空気が流れていた。


ユヅキに連れられて来た先は、2階上の階の病室だった。
部屋は個室で、薄暗く、生命維持の音だけが響いている。


「あれがクレド。」


その不気味とも言える部屋に、ユヅキの低音が鳴る。
あたしは思わず、ユヅキの袖を掴んだ。

こうしていないと、体がわなわなと震えそうだった。
目の前に広がる光景を信じられなかった。


それを見越してか、ユヅキはゆっくりとそれに歩み寄る。
掴んでいるあたしも誘導されるが侭に、覚束無い足取りで進むが地面が

ふわふわ

ふわふわ


隙間から差し込む僅かな光が、現実と夢との間を行き来して
まるで白昼夢を漂うみたいにあたしの意識を持っていく。


涙が、また、零れる。


透き通った肌。

綺麗な髪。


目の前に在るのは、本当に、クレドだ。


「な…どうして…」


無数のチューブに繋がれたそれは、綺麗な造形物。

それはずっと、あたしが望んで居た事のハズなのに。

無機質な何かに憧れて、自虐行為を繰り返した、あたしがそう成るべき報いなのに。


涙がぼろぼろと零れ落ちる。


あたしは…クレドにそんな事、望んで居ないよ…?
あたしが居なくなれば、クレドは幸せになれるって…
そう、思ったのに…


「クレドは元々、心臓が弱くてね。3か月前からここに居る。目を覚まさない。」


−−俺もよくあるから、そういうの


クレドの部屋で聞いたその言葉が、頭の中で蘇る。
あれはそういう事だったんだ…


申し訳ない気持ちと共に、何も知らないでのうのうと生きていたのはあたしの方だったと思い知らされる。
死にたがりのあたし。
こんな姿になっても前向きに生きようとするクレド。


そこには相容れない壁があるように思えた。


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あきゅろす。
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