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〜宛メメント
パンドラの匣

「大丈夫か?
目を離すと駄目だな、君は…」


まだぼうっとする思考の片隅で、状況を整理してみるけど無駄に終わった。
唯一解る事は…、前にも、こんな風に助けられた。


クレドに…。


「クレド…っ」


乾いた涙が突然、溢れ出す。


幼い頃も、あの時も、クレドはあたしを助けてくれた。
それなのに、それなのに
あたしは何時も、素直になれない。
傷つくのが怖くて逃げ出してばかり居る。


ごめん、

そして謝ってばかり。


嫌な記憶を消して、過去に囚われない様、独りで生きようと誓った。
だけど、クレドはあたしの事を…


「おい、泣くなよ。…もしかして、思い出した?奴のこと。」


「………うん。」


人間て、何故こうも儚くて浅はかなのだろう。


母が居なくなったあの日、助け出してくれたその手。
あれは紛れもない、クレドだ。


その手の温かさ、声、懐かしい気はしていたけれど。
あたしの中の一番消したい記憶のその奥に、クレドは居たのだ。
まるでパンドラの匣のように。


声にならずに溢れ出てくる涙を、ユヅキはそっと指で掬い上げる。
あの時の、キラキラした雪を丁寧に掬い上げるかのように。
その指はひんやり冷たくて、それでも温かい。


「…会いに行く?…クレドに。」


「…え?」


ユヅキはふわりと笑うと、切なそうに眉間に皺を寄せる。


「…近くに、居るんだ。」





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