〜宛メメント
鬼
…――
……―――
キラキラと舞い散る雪の結晶。
辺りは闇が迫って居て、小さなあたしは帰路に就く。
ピンクのコートから覗いた小さな白い手袋の先には、誰かの温かい手が在る。
その誰かは、あたしと同じ背丈の…。
雪が積もって家路が見えない道を、二人の足跡が平行に並ぶ。
お互いの温もりを感じ合って。
あたしは幸せだった。
この侭、この温かいモノに身を委ねて居られれば。
そう思った矢先だった。
家に着くと、そこは幸せとは程遠い光景が広がる。
優しかったママが、見た事もない位の鬼の形相。
血染めのワンピース。
突き刺さったナイフ。
刺さったのは、アレハナニ?
鬼がこちらに気付くと、あたしの頬を殴り付ける。
そして悲鳴なのか嗚咽なのか、どちらともとれない言語で喚く。
あたしは涙を堪える事が出来なくて、その場に立ち尽くして声を殺す。
それを見た鬼は更に狂い、あたしにナイフを翳した。
ああ、
やっぱり幸せって
ないのかも知れない。
この鬼は、この女は、ママじゃない。
あたしはここで死ぬのかな…
死の訪れを受け入れると、世界はそこで時が止まるのを知った。
目まぐるしく鳴り響いていた感情の鐘が、一つの音も立てない。
何も考えられない、思考を停止させた、その時。
あたしの腕を勢い良く引っ張る、誰かの腕。
そして二人は走り出した。
どこまでも。
とにかく遠くへ。
誰の目も届かない処へ。
雪よりも真っ白な、世界へ。
その刹那、後光を浴びた、その子の顔…
…あれは、クレド?
そして、虚しくサイレンが響いた。
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