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〜宛メメント
シルバー


「あ…覚えています。ユ、ヅキ、さん。」


冷や汗混じりにそう答えると、男は煙草の煙を笑いながら吐き出した。
煙草を掴んだ右手には、シルバーのリングが何個も輝いていて、似合う。


「変なとこで切るなよ。それより、災難だったな。」


赤LARKの煙が辺りに充満している。
灰皿がない事に気付いたユヅキが、廊下を歩き出した。


「…助けてくれて、ありがとう。でも。」


一応、ユヅキの背後からお礼を言うも、ユヅキは「は?」といった表情でこちらを振り返った。
それを見て、あたしも目線を合わせると、すぐにユヅキから逸らす。
「ああ、」と言ってユヅキはまた、あたしの手を引っ張って行く。


「何?何処行くの?」


「え、だってそれじゃあベトベトで気持ち悪いかと思って。とにかくついて来な。」


そしてユヅキは口元だけで笑う。
長い黒髪を揺らし、耳から覗くシルバーピアスが、この人の人物像を浮かび上がらせる。
カンだが、この人は、いい人だと思う。
細身の長身は黒服に包まれているので一見怖い人と思いがちだが、ユヅキのしなやかな指先や綺麗な目の奥を見ると、どことなくクレドに似ている気がする。


どうせ、このまま仕事を続けても、そんな気にはならない上に、あの雰囲気だった宴会場にも戻れない。
会社に戻っても、ミスしてお客を怒らせてしまったのでバイト代も貰えないだろう。


あたしは、ユヅキの手を握り締めて、彼の後を追った。




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