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〜宛メメント
罵声


キャアアアア!


厚化粧を施したコンパニオンの女達の自慢の顔が、蒼白に崩れていく。
悲痛な叫び声が、一瞬遅れてあたしの耳につんざいた。
その直後、あたしの髪から滴り落ちる、甘いブランデーの匂いに吐きそうになる。
あたしがお酌をしていた目の前の客が、いきなりブランデーの入ったグラスをあたしの顔目掛けてブチ撒けたからだ。


「やる気あんのかよ!」


あたしに向って投げつけられる罵声に、当のあたしは目を丸くするだけだった。
こうなってしまったのも、全てあたしのせいだとは自覚していた。
何時ものようにお酌をして居たが、何時もと違っていたのは、仮面を被れなかったって事。


チョビコになりきって、金の為なら何だってする何時ものあたしになれなくなって居た原因は、やはりクレドだった。
今日のお客の中に、クレドのものと同じ、エタニティーの香りが香ったから。


瞬時にあたしは、クレドを思い出し、その場に固まってしまう。
思い出すには十分なその香りの効果は、予想外に絶大だった。


クレドのバイク、
クレドの部屋、
クレドのベット、


覚醒剤中毒者のように、あの時の記憶が海馬越しにフラッシュ・バック。
過去のクレドが、あたしの思考回路に纏わり付く。


儚くも僅かに残るその香りは、あたしの幻覚?
そのせいで今のあたし、滅茶苦茶よ。
水商売は自分を偽る仕事と割り切って居たつもりが、今のあたしは女々しい只の女だわ。

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あきゅろす。
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