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〜宛メメント
紫煙



ドスッ。



黒革のケースに入った重たいギターを、玄関先に勢い良く置く。
華奢な肩は今にも外れてしまいそうな程、ギターは重かった。
ふう、と自然に漏れる吐息で一呼吸吐き、一服しようと煙草に手を伸ばす。
すると足元では、カサリ、と紙擦れの音が響いた。


「また、か。」


煙草に火を灯しながら、お馴染みとなってしまったクレドからの手紙を拾い上げる。
あたしの暮らしをさも覗き見ているかのようなタイミングで届くこの手紙。
あたしが落ち込んでいる時目掛けて来るから、少し不気味さをも感じる。


あれ?


不思議に思い、リビングのテーブルに置いてあった手紙を読み返す。
一番最初のクレドからの手紙は…確か先月。
二通目は、先週。
三通目は昨日の朝に、確かに読んだ。
そして今日、四通目…


この手紙が真実を伝えているならば、クレドは海に居る筈だ。
この手紙には宛名も切手も無い為、クレド自身があたしの部屋のポストに投函しているのだろう。
だとしたら、昨日今日と投函しているなら、クレドはこの街にいる?
それでも、何かおかしい。


先週から今日にかけて三通も、海からこのアパートまで頻繁に通う?
一番近い海からここまで、三十分から一時間はかかる。
通えない距離ではないけれど、クレドがあたしの為にそこまでするのだろうか。


考えても答えの見えない思考に終止符を打つと、ふーっと大きく紫煙を吐き出す。
ゆらゆらと立ち昇るそれは、まるで過去の残骸だ。
見詰め続けて居ると、途方もなく孤独な過去を呼び覚ましてしまう。
クレドに出逢ってから今まで、やっぱりあたしは、君に捕らわれた侭。


「…クレドの気持ちが、解からない。」





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