〜宛メメント ギター そう思いながら、どこかぎこちない作り笑いを返す。 極度の恥ずかしさから、老人の前から自分の居場所が無くなると、横目でギターをチラリと見る。 すると、店の奥の方に、クレドの部屋で見た事があるようなギターが下がっているのを見つけた。 見間違い?否、見間違う筈が無い。 思わず、店の中へと駆け寄ると、それは姿形もクレドの物とそっくりで。 「なんだい?このストラトがお気に入りかい?」 吃驚の表情を浮かべた老人が、悠長に歩きながら声をかけて来たが、あたしは無視。 そのフォルム、ライン、威圧感。間違いない。あれと同じだ。 ピンクから紫にグラデーションが施されたもので、生憎、ボディーには蝶ではなく蜻蛉のタトゥーが貼ってあった。 偶然か、あたしの太股に施された蜻蛉と、どことなくシルエットが似ている。 目をキラキラ輝かせてそれを見て居ると、老人はほっほっほと笑いながら、そのギターを手に取ってくれた。 「そういえば、この色はお嬢ちゃんにぴったりだね。弾いてみるかい?」 どうぞ、と手渡してくれたエレキギター。 だけどあたしは、CとGのコードしか知らない。 両手で持って、まじまじとそれを見つめると、無機質な生き物のような鼓動が感じられた。 何故かとても、愛着がある。 それはきっと、クレドがこれと同じギターを持って居るだとか、 少しでもクレドに近付きたいだとか、そんな浅はかな考えのせいでは無い。 ドクン、 ドクン、 その脈打つような、今にも歩き出しそうな鼓動に、あたしは感嘆した。 その理由は一つしか無い。 自分に似ているから。 「これ、買います。」 外では、今年最初の初雪がちらちらと舞って居た。 [←] [戻る] |