〜宛メメント 楽器屋 そう考え込む事に疲れ、溜め息混じりにふと顔を上げると、目に付いたのは古い楽器屋だった。 ショーウィンドウの中にはエレキギターが幾つか飾られており、他にもベースやキーボード等がある。 吸い込まれるようにその店の店頭まで来ると、ショーウィンドウにへばり付くようにしてギターを眺める。 すると、色とりどり、形も様々な、光り輝く塗装のギターもこちらを見返す。 クレドのようにギターには詳しくないので、洋梨の形だとか、人気バンドのモデルだとかいう事しか解からない。 …あ。 そうか。 腹を立てて居たのは、自分の事じゃ無い。 クレドの事だったんだ。 人は、自分よりも大切な人の事を優先して考えてしまうって、誰かが言っていた。 まさかそれを自分が経験する事になるなんて、想像もしなかったけれど。 ギターを見ながら、思い出したかのようにふと気付くと、肩の荷が下りたような気がした。 つい不器用に少しだけ笑うと、店の中に居た店員がおいで、と手招きしてあたしを呼ぶ。 変な所を見られた。 不覚にも笑った一瞬を。 恥ずかしくなって、首を横に振ってもう帰ろうとした時、店員は小走りで駆け寄って来た。 よく見ると、初老で白髪の、優しそうなおじいちゃんだった。 「君、ギターが本当に好きなんだね。 そんな顔してギター見る女の子は、他に居ないよ。」 「…え? どんな顔?…酷い顔かしら。」 「あっははは。面白いね。 君の笑顔の事だよ。ギターに笑いかけて、幸せそうな様子だったよ。」 あたしがギターに、笑顔? 些か、驚きとショックを隠せなかったが、老人はあたしがボケたんだと思い笑い飛ばして居た。 そしてにんまりと優しい微笑みを向けられながら、素直にそれを受け入れられないあたしが居る。 褒め言葉なのだから、素直に喜べれば良いのに。 [←][→] [戻る] |