〜宛メメント 金 外はもう明るくなっており、サラリーマン風の男達や美しく着込んだOLの人々が、忙しなく大通りを行き交って居た。 昼間に働く人は、これから出勤か、ご苦労だな、と労いながら、あたしはミユウの後を追った。 ミユウは、近くの小さな公園に入ると、懐からさっきの金を出し徐に数え始めた。 「はい、あんたの取り分。」 そう言って渡されたのは一万円札3枚。 ミユウの方は一万円札5枚に千円札か五千円札かの何枚か。 それを当然かの如く一方的に渡されたので、少し苛立つ。 「ちょっと。それオカシイんじゃない?あんた何もしてないじゃない。 あの男の性欲処理したのはあたしよ。」 そう講義したのは、別にお金が欲しかった訳じゃない。 ただ物凄く腹が立っていた。 人を騙してこんな所へ連れて来て、ミユウは平気で裏切りあの男の相手をさせた。 当の本人は事が終るまで隠れて居て、男が眠ってる隙に金を巻き上げて逃げる。 そして、不平等な配分。 「なんで?この位、妥当だと思うけど?仲介料よ。」 「…そう。別にいいわ。もう金輪際、あんたとは組みたくないから。」 自分の行動を微塵も反省していないミユウのその言動に、ついにあたしはキレた。 傍から見ればそれはサラッと言って除けただけの、怒りを表す言葉ではないかも知れない。 しかしあたしは、そう言い終えるか終えないかの内に、ミユウに背を向けて歩き出した。 そんなはした金なんか、要らない。 あんな下げ隅の言葉なんか、要らない。 そんな見え透いた裏切りなんか、要らない。 あんな薄っぺらい言い訳なんか、要らない。 黙々と只歩き、公園を後にした。 アパートに向って歩いて居るという感覚だけで、行き交う人々と肩がぶつかって怒鳴られても気にならない。 …なんて安請け合いしたんだろう。 そればかりが、あたしの頭の中を巡って居た。 [←][→] [戻る] |