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〜宛メメント
裏切り
ふと気が付くと、男は大きなイビキをかきながら隣で熟睡していた。
あたしは今の今まで、裸のままベッドの上で気を失っていたらしい。
…と言うのが正しいのか、実際の所はよく解からない。
何時も気の無い男とヤル時は何も考えないように意識を手放す事が癖になっていたし、
今回に限っては、何故か眠りから目覚めた時のような爽快感がある。


寝て居たのか?
身体を起こして辺りを見回すと、ゴミ箱の中にはちゃんとティッシュの塊があるので、一応事はした筈だ。
なら、あたしはもう用は無いよね。


のろのろと重たい身体をベッドから引き摺り出して、自分の服を身に纏う。
小さな椅子に乱雑に置かれていた自分の荷物を見つけ、鞄の中からコスメポーチを取り出し鏡を覗く。


…酷い顔。
まるで生気が無い。
少しでもマシに見えるようにと、口紅を塗ってみるも、大して様変わりはしない。
ハァっと肩を竦めると同時に、部屋からおさらばしようと立ち上がったその時だった。


「さーちーこー。」


後方からの気だるげな声にはっと身を捩ると、脱衣所のドアからミユウが顔を覗かせた。
まるで獲物を狙う獣のように静かに歩く彼女を見て、あたしはまた溜め息を吐く。


「あんた、帰ってなかったの?」


そう言ってあからさまに表情を歪めると、あたしは程なく察する。
この女、本当にシャワーしていたのかも怪しく、ただ脱衣所に身を潜めて居ただけなのでは無いのか?
それはミユウが手に持った自分の鞄で明らかだ。
きっと暇潰しでもしていたに違いない、そうじゃなきゃ、シャワーするのに鞄なんて要らないもの。


「何言ってんの?あたしが帰ったら、あたしの取り分が無いじゃない。」


ミユウは悪ぶれた様子も無くそう言いながら、堂々と男の鞄の中を漁り始めた。
男の、黒光りしたオーストリッチ風の鞄は、いかにも高そうなブランド品だ。
その中から黒い長細の革財布を取り出すと、無礼にも札を全て引き抜く。


「これだけかよ。大した事ないね。早くヅラかろ。」


札束を持った手を懐に隠しながら最後に毒吐くと、ミユウはそそくさと部屋を出て行く。
その様子を見て居たあたしも、もう帰ろうと思っていた矢先だったので、ミユウの後に付いてラブホを後にした。

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