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〜宛メメント
浴室
シャアアアァァァァァ……


タイル張りの床に、シャワーから零れた水流が無残にも散った。
あたしは何もない空間を睨み付けるようにして、無言でシャワーを浴びる。


ミユウに連れて来られた、古惚けたラブホテル。
その一室でこれから繰り広げられる、まるでお芝居のような出来事に対し、あたしは早速理解したのだ。
そう、つまりミユウはこのまま逃げる気なんだ。
あの男の元に、あたしを置いて。
いい気味だ、とほくそ笑みながら。


そう悟った時、ミユウならそこまでやってのけるな、という肯定の念と、
自分はどうしてそんな馬鹿な女に付いて来てしまったんだろう、と後悔した。
あの馬鹿な女の事だ、よく考えれば解かる筈だった。
何故なら、ミユウは…クレドを……


「馬鹿みたい。」


そう吐き捨てながら、あたしは浴室を出る。
脱衣所で身体を拭きながら、その言葉はまさに自分に対してだ、と思い直した。


情けない。
こんな状況に置かれても、思う事はクレドの事だけ。
まるでクレドは、呪縛のように、宗教のように、あたしの中から離れてはくれない。
こんなに拒否しているのに、ちゃっかり真中に居座っているのがクレドらしい。


…もう、あの手紙に悩まされたくないな。
拒否さえしなければ、悩まずに済むのかも知れない。


海。
クレドはそこで待つと言う。
一体、いつまで待つつもりなのだろう。


もう肌寒くなって来た。
もしかしたら海では雪も降っているかも知れない。
もう体の事が一番心配だ。


…何故、そこまでしてあたしを待つ?
何故、あたしなのだろうか?


想いの螺旋に囚われて、あたしとクレドは彷徨って擦れ違って居るって事は解かってる。
でも。
そう易々と受け入れる事が出来ないのは、あたしの性か。

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あきゅろす。
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