〜宛メメント
オイルタンク
どの位バイクで飛ばしたのだろうか。
「クレドの部屋、行こうよ」
と言って連れて来られた所は
静かな郊外に在る小さなアパートだった。
築5年という立派な肩書きにしては少しボロく、
それでいて西洋の洒落たお城のようなレンガ造りの外観は、
どこかレトロなお伽の世界に導くかのようだった。
街灯の優しい明かりだけが人口光で、道路の向こうには河原が広がる。
流れる水の音に時折、入り混じる魚の跳ねる音。
…そう、貴方も孤独の中で生きているのね…
そう耽って居る中、クレドは傍らにゼファーχを停め、殺伐と戸を開け放つ。
だいぶ長い距離を走ったのだろう。
ゼファーχは生き物のように熱く鼓動して居る。
オイルタンクに手を当て優しく撫でると、あたしの中で狂おしい程の悲壮感が溢れた。
ドクン、、ドクン、、、
鼓動は一気に絶頂まで上り詰める。
息が上手く出来ないのを必死に堪えて、過呼吸寸前で意識を正常に保とうと試みる。
何を重ねたの?
熱くなったゼファーχが今のあたしにそっくりだった?
返事は返って来ない。
「大丈夫?」
「平気。男の家に入るの、緊張してるだけ」
少しの笑みを含めつつ、内心穏やかでは無かった。
それでもクレドは微笑んで、あたしの手を取って中へと導く。
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