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〜宛メメント
ブラック・デス

「ギムレット。」


あたしの目の前のカウンターに座った男は、低い声で注文して来た。
はい、と言う間も与えず、あたしは無言でギムレットを作る。

シェイカーにジンとライムと氷を入れ、シェイクする。


あたしも、この酒に酔ってしまいたい。
……クレドの好きな、ギムレット…。


クレドの事を思い出すと、胸が苦しくなる。
今朝も届いたあの手紙を読んで、あたしはずっと泣いていた。

吐き出したい思いも、泣く場所のないあたしも、クレドには曝け出せるって言うの?


ねぇ、クレド。どうして?
どうしてあたしに、手紙なんかよこすの?


あたしはそんなに綺麗な蝶にはなれないよ…
酷く汚れた黒い羽根を、必死に広げる事しか出来ない。
今にも萎れそうな小さい羽根。
グロテスクな模様をもっと大きく見せようともがくあたし。

とてもじゃないけど、綺麗なんて言えないよ。


クレドの事を思い出す度、足が震えて立っているのも侭ならなかった。
今すぐ泣き叫びたい衝動を押さえ込んで、客にギムレットを渡す。


「…美味しい。
あんた、ブラック・デス・ジンを使うなんて珍しいな」


ギムレットを一口飲んだ、その男の言葉に、一気に目が覚めた。
思わず、磨いていたグラスを落としてしまいそうな位、あたしは動揺する。


「…ありがとうございます。」


ニコリと微笑んで、その客に愛想を振り撒く。
クレドの好きなギムレットとブラック・デス・ジン。
使ったジンがブラック・デスだと解かられたのは、初めてだった。


大概の客は、カクテルを飲みに来ているんじゃない。
フリフリドール服で露出した女に会いに来ているのだ。

だからと言って、この店のカクテルが不味い訳では無い。
現に、あたしの作るカクテルは客からも従業員からも好評だ。


だからなのかも知れない。

この客――黒い長髪でピアスを何個も開けた男――に少し惹かれた。



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あきゅろす。
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