〜宛メメント
反芻
コンパニオンのバイトを初めてもうすぐ1年になる。
18歳以上になると正社員になってしまうのが嫌で、
あたしは歳を偽って
―つまり現役女子高生という少しばかり無理のある嘘をついて―
働いてきたが、それももうそろそろ潮時だ。
客を商売相手にする場合、いちいち会社を通さなきゃならないし、
電話番号などの個人情報も、客に聞かれたら教えなきゃならない。
その場であたしに手渡してくれる金がよほどの大金であったとしてもはっきり言って割が合わない。
そもそも、会社から雇われている事事態、あたしはあたしらしくもない。
8階へと昇るエレベーターの中で、あたしはふと、そんな事を思ってみる。
時給850円の昼間のコンビニ店員も悪くない。
慣性に逆らって静止したエレベーターのドアが間もなく開き、
あたしの思考は「仕事」という二文字だけを反芻するようになる。
こうしておけば、例えそれが嫌な仕事であってもラクに出来る。
前頭葉から溢れ出す幾つかの思考を全て停止させ、
感情というものを一切シャットアウトしてしまうのだ。
覚醒剤でも打った中毒者のように、
又は喫煙者が煙草を吸う時の快感や安心感にも似ている。
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