〜宛メメント
麒麟
ガシャン。
大きな物音と共に、注がれていた麒麟生ビールが床にこぼれ出した。
いつも目にしている茶色い瓶は無残にも破片と化し、
廊下の至る所へ炭酸混じりの黄色い液体が溢れた。
時間が一瞬静止したかのように徐々に流れ出すそれは
あたしの身体の中から溢れ出るソレにも酷似して居た。
シャンパンから飛び散る液体なんか、男の精液にそっくりなのに。
「すみません。」
ようやく一礼をして、瓶の破片を拾う。
「危ないからいいのよ。それよりこれ、持って行って」
大きな有名旅館の仲居さんから渡された、ビールが数本入っている桶を
何の気なしに無愛想に受け取って、あたしは廊下をひた走る。
今日の客は警察所の祝賀パーティーとやらで、
ざっと50人はくだらない。
普段お堅い職業のせいか、酒が入ると傲慢で乱暴。
そのくせ、何杯も酒を追加注文してくるので腹が立つ。
あたしの一番嫌な客柄だ。
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