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メタルハート
酒場シリウス
「ちょうど昨日、そのご主人が久々に飲みに来たんだ。
事情を聞くとまた厄介な事になっていてね…」

「厄介な事?」

眉根をぴくりと寄せて葉月は聞き返す。
直感がピンと来た時の葉月の癖だ。

「そ。
聞けばね、二週間程前に、彼の屋敷で雇っていた亜人のメイド達が暴れ出したんだと。
その暴れ方っていったら見境ない位に凄かったらしい…」

朝霞や狼男と同じだ…。
やっぱり、亜人がオカシクなるっていうのは偶然じゃないんだ…。
あの時の朝霞は、何かに操られたような人形みたいだった。
朝霞が発した言葉も気になる…

『ち…ち…
にんげんのち…

にく…にく…
にんげんのにく…』

確かにあの時、
朝霞はこう口走っていた。

「…ところで、
暴れ出した亜人が人間を襲って死なせてしまったとすると。
どーなると思う?」

「…どうなるって。
そんなの考えてもみなかったわ」

葉月が首を振った。
黙ったまま俯いて考え込んでいたりゅあはふと、言葉を漏らした。

「人間の血、人間の肉…」

心内で呟いた筈だったのが直接声に出して言ってしまい、はっと気付いた頃には永遠と葉月が顔を見合わせていた。

バツの悪い空気に益々焦る。

「…実はりゅあの言う通りなんだよ。
人間の息の根を止めると血肉を喰らい始める。
彼の屋敷では人間のメイド達が殆ど息絶えたそうだよ…
死体は喰い散らかしてね」

重々しく淡々と語る永遠は、腕組みをしながら考え込んだ。
そこに割って入ったのは葉月だ。

「そんな…要するに"殺す"じゃなくて"食べる"目的って事?
有り得ないわ…」

ショックを隠し切れない葉月の隣でりゅあも頷いた。

「襲われた時、朝霞が言ってた。
人間の血、人間の肉…って」

もしあの時、葉月が助けてくれなかったら…
あのまま朝霞のようで朝霞じゃない"何か"に喰われていたかも知れない。
りゅあの体がぶるぶると震えた。

「…そうか。
人間の血肉を狙うのは何か訳があるんだよ。
憶測だけど黒魔術的な何かが…
昔、読んだ事があったようななかったような…」

「んもうッ!
しっかり思い出してよ!
…って、りゅあ大丈夫?」

りゅあはガタガタと震える体を押さえ込むのに、収まってくれない。
葉月が気を使って、腰巻きのローブをりゅあの肩に掛けた。

「…なんか変な感じ…」

虚ろな目が暗闇を捉えた。

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