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メタルハート
酒場シリウス
「いらっしゃいま…」

言いかけた瞬間、それを飲み込むとまた小さな声で呟く。

「…マリア…!!」

「なぁに〜?永遠の知り合い〜?」

引きつった永遠の目に映ったその女――マリアは、無言でカウンターの端に腰掛けた。
そして、永遠に群がっていた女達をギロリと睨む。
ゆるくウェーブがかった長い黒髪と赤い眼から発する独特のオーラが、永遠の取り巻きの女達をものともせず退避させた。

「久しぶりね、永遠。」

伏せ眼がちの顔をようやく上げると、ぱっちり開いた眼孔で睨むように薄ら笑いを浮かべる。

「…元気そうで何より」

それに倣って永遠もやる気のない笑みで返すと、マリアは自身の胸の前で十字の印を切った。
胸元が開けた黒いスリットドレス、幅の広い袖口から手へ絡み付くような金属チェーンが毒々しい不気味さを感じさせる。

「貴女がここへ来るなんて珍しいね」

マリアの前にロックのブランデーを差し出しながら、異様とも言えるその出で立ちに恐怖さえ湧く。
すると彼女はクスリと笑った。

「商売の邪魔にならなきゃいいけどね。」

マリアがグラスに手をかけると、カランという氷の音と共にチェーンがチャラリチャラリと鳴る。
血のように紅い唇にそれを運ぶと、美味しい、と一言呟いた。

「そりゃどうも…ローゼス大陸から買い付けた旨いブランデーだからね」

…悪寒がする、とは正にこの事だ。
冷や汗が滴るのではと思う程の、強烈な威圧。

それはマリアが黒魔術士である事を意味している。
黒魔術士はこの世界でも珍重に値する程、価値が高い。
彼女程の霊圧を持った者なら尚更、高い金で仕事を請け負うのだろう。
…まあ、普通ならば、だ。

網タイツを覗かせた太ももを組み替えて、マリアは永遠を見据える。
極度に緊張しながら、グラスを磨く永遠に酌を要求すると、クスリと笑った。

「ねえ、永遠。
あなた最近の亜人の異変について、ご存知?」

「…えっ?」

思わずグラスへ注いでいたブランデーを零しそうになりながら、マリアは低い小さな声でまた不気味に笑った。

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