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月三物語
ページ11

「浩司、着いたよ」

 涼が抱きしめていた腕を放して言った。
 恐る恐る、目を開けた俺の目に飛込んできたのは涼の顔。
 ほんのり桜色に色づいた綺麗な顔だった――

 だけど、抱き合って居たって云うのに涼の意識が流れて来なかった。

『何故だ? それに、ここはドコだ?』

 最初に目に付いたのは、広大な敷地に馬鹿でっかい屋敷。

「ここはドコだ? 涼、間違って来たんじゃ……」

 涼は馴れた所の様に、迷いもせずスタスタと歩いて行き、玄関のチャイムを鳴らす。
 暫くして出てきたのは、如何にも執事然とした格好の初老の男。

「佐伯さん。章吾は帰って来ている?」

 涼が、真剣な顔をしているのを見て佐伯と云う執事は「涼様。章吾様は未だ、戻って来て居りませんが、此方でお待ちになって下さい」

 やたら、だだっ広い玄関に入り応接間に通され、すっかり上がってしまった俺は、まるでロボットの様にギクシャクと歩く。

 それを見た涼は、笑いを堪えて居る。

「涼、赤月の家って、もしかして……あの、病院の?」

「そうだよ。章吾のお父さんが院長なんだって」

 通りでデカイ家な訳だ。
 赤月総合病院と云えば、ここら辺では一番の規模を誇っている。

「赤月も将来は医者になるのかあ〜でも、俺達の大学は医科歯科は無いけど」

「兄さんが跡を継ぐんだってさ、章吾が言ってたよ。なんか、余り仲が良くないらしい……判るんだ、オレん家もそうだから」

 哀しそうに話す涼を見てると、俺まで悲しくなってくる。

「月島……感化されたな? 涼≪力≫が洩れているよ」

 いつの間に居たのか……赤月が、ドアにもたれて立って居た。



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あきゅろす。
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