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月三物語
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「無理ですよ、先生。この患者には意思の疎通は出来ないです。ここに来てから一度でも返事した事など無いんですから」

「いえ、少し待ってくれませんか? 試したい事が有るので」

 そう言うと私はファイルケースから一枚の写真を取出し、彼女の目の前に差し出すと問い掛けた。

「この人は誰か判る? そして、君は誰だい?」
 目の前に彼女は、ぼんやりと視線を写真に合わせた。
 だが、その瞳には感情の欠けらさえ映っては居なかった。

「ね、無理でしょう? 本当に重度の患者なんですよ。時たま、叫びながら暴れる以外は大人しくこうして居るんです」

 看護士の話を私は聞いては居なかった。
 頭の中で目まぐるしくファイルをめくっていたからだ。
 何か有る。彼女にとってのキィワードが必ず。 そして無意識に口をついて出てきた言葉。






「花は好きかい?」



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