[携帯モード] [URL送信]

月三物語
T

 出会ったりしなければ、そしたら私は今でも窓の外にいれたはず。


 光溢れる地上の、誰も何の疑問を持たない日常に。

 時たま覚醒しては、思い知る現実。
 いっそ、二度と目覚めたくないと、ぼやけた視界で必死に探す。

 だけど、この場所には『アレ』など、ある筈も無く。
 唯一私が出来る事といえば、声なき声で叫ぶ事ぐらい。


『コロセ、いっそコロシテシマエ……!』





「あの、ZZ-2号の患者さんなんですが……」

 まだ新人らしき看護士が泣き叫ぶ女の声に、一体どうしたものかと指示を仰ぎに来た。


「ああ、何時もの事さ。放って置けば直に、静かになる」

 先輩看護士は慣れているのだろう、さして気にもしてない様だ。

「ですが、一体何を言ってるんでしょう?」

「分からんね、大方ヤクでも欲しいんじゃないのか? ここに来る前は、結構なヤク中だったらしいから」

「でも、惜しいですよね。かなりな美人なのに……」

 今時の若者らしい素直な感想に、先輩看護士は青さと少しの嫉妬を覚えた。
 自分にも、そう思えた時期も有ったなと。
 けど、じきに彼も俺と同じ風にしか思えなくなる。

 患者といえど、普通の患者ではないのだ。


 此処は特に違う。特別病棟、重度の精神を患った者達の城なのだと――

 世間一般の常識や、まともな会話などは通用しない、引きずられない様に、正気を保てる者だけが介護出来る病棟なのだから。



[前頁][次頁]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!