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月三物語
流れゆく響…流されゆく蛍

 歴史は繰り返す――

 この物語は近い未来に起きる。双子の兄弟の苦悩と闘いの記録である――


「蛍(けい)響(きょう)学校に遅れるわよ!」

 母さんが階段を上がりながら、声を掛けて来る。
 僕は、目を開け寒さにブルッと震えながら、隣のベットに寝てる筈の蛍の顔を覗き込もうとした。

 だが、何時もならば僕よりも寝起きが悪い蛍の姿が無い。
 変に思いながらも母さんに返事をして着替えて下に降りる。

「ねぇ、母さん。蛍は何処?」

「あら? 寝ていたんじゃないの? 下には居なかったから……」

 変だ……独りでは何処にも行く訳無いし、こんな事は初めてだ。
 僕と蛍は一卵性の双子の兄弟だ。
 世間の人が思ってる以上に僕達は強い絆で繋がっている。
 それには、ちゃんとした理由があるんだけど。

「珍しく早起きしたから、北斗を散歩にでも連れて行ってるのかしら?」

 母さんはそう言ったけど、直感で違うと僕は思った。
 胸騒ぎがして落ち着かない。

「響、何か感じたの?」

 僕の目を覗きこんで母さんが聞いた。何時もと違い真剣な表情で、綺麗な顔に『心配』の二文字を刻ませて。

「多分、蛍は近くには居ないよ。北斗はちゃんと犬小屋に入ってご飯を待ってる。蛍の思考も気配すらしない。母さん……」

「分かった、待ってて」

 そう言うなり、母さんの体が段々薄れて行き、遂には消えてしまった。
 見慣れた光景では有ったけれども、僕にも母の様な《力》が有ったならと思わずにはいられない。

 僕の名前は美月響。母には特別な《力》がある。
 どういう訳か、僕達双子は《力》を受け継ぎ、僕は『予知』を、蛍は『念動力』を産まれ持っていた。

 もちろん大した《力》は無いんだけど。僕にすれば1キロ先に何が起っているか位は分かる程度だ。
 出来れば母の能力の方が良かったなどと蛍と良く話をしていたっけ。

 母さんが行ってしまって、僕はスッカリ途方にくれてしまった。蛍と一緒でないと学校にも行く気にもなれない。
 月華二中の三年で、受験戦争の真っ只中である筈の僕達には、休んでる余裕など無いんだけど。

「響、蛍が何処にも居ないわ!」

 何時もの母さんらしからぬ凄く不安そうな表情に、僕は背筋に氷を当てられた様に体を震わせているだけだった――



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