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月三物語
【奪取】

 男は走っていた――必死の形相で、普段は洒落者を気取っているのが髪を振り乱し走る様は、道行く人が振り返る程だ。

『畜生! フザケやがって! 絶対に止めさせてやるからな! 』

 のセリフの畜生は声を出してたかも知れない。擦れ違った人が「ヒッ! 」と声を上げたからだ。

 都心の中心にありながら、緑に囲まれたビルに男は入って行き、エレベーターに乗り込む。載り合わせた団体が眉を潜め小さな声で隣に囁いた。

「まあ、なんて格好なんでしょ。一体何しに来たのかしら」

 男は陰口を叩かれても、ひたすら目の前の階数ボタンをジッと見つめているだけだった。

 やがて、男はドアが開いたかと思うと、脱兎の如く飛び出して行った。後にはポカンと口を空けたアホ面の団体を残して。

 入り口の両開きのドアで職員を薙ぎ倒し、両手でおもいっきりドアを開け叫んだ!




「その結婚は異議あり!!! 俺は認めねえ! 」

 参列者達は思った。大方花嫁の男が《卒業》ばりに奪いに来たのだろうと。だから、次に続いた男の台詞に皆は度肝を抜かれた。


「章吾、俺と行こうぜ! そんな結婚なんか無しにしてさあ! 」

 一部を除いて、椅子からズッコける者、呆けた様に口を空けている者、花嫁は泣き出してしまい、厚く塗った化粧が落ち、誰が見ても結婚したくない顔になった。


「君! 一体どういう事何だね? あ、アイツは誰だ? 」

 花嫁の父だろうか、良く似た顔の男が椅子から立ち上がり章吾に向かい口から唾を飛ばしながら怒鳴っている。


 その時、章吾に似た男が立ち上がり、章吾に怒鳴った。

「お前どうなってるんだ?! ちゃんと清算したんじゃなかったのか! 家の顔に泥を塗りやがって! お前なんか、兄弟でもなんでもない! とっとと出ていけ! 」

 そう言って椅子に座ると隣にいる父に言う、アイツはほっとけと病院には俺が居るから。側にいた佐伯と日向子も頷いた。


「もう、勝手にしろ! 勘当だ……」

 それだけ言うと、父は崩れ落ちる。佐伯は良く言ってくれましたと頭を下げた。


「兄さん、父さん……ありがとう……」

 章吾は頭を下げて、歩き出し、途中から走って、瞬が差し出した手をしっかりと握り式場から姿を消した――



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あきゅろす。
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