月三物語
【苦悩】
「シュン……どうしたの? 」
玲児のヤツはそう聞いた。俺がここまで酔い潰れるのは初めてだからだ。
俺の事務所は空っぽだし、啓介兄から聞いて来たらしい。
「どうした、だって? 見りゃ判るだろ? 振られてヤケ酒だ」
「ショーゴに振られたんだ……じゃあさ、『オレと寝る? 』」
コイツはホントに……冗談だかマジで言ってるか、チットも分からねえ。
「あっ! そうそう、お土産があったんだ〜はい、シュン! 」
と、言いながらヤツはトランクを寄越した。かなりデカクて下にキャスターが付いてるヤツを。
「おめえ、ホントに世界一周して来たのか? 」
ヤツは嬉しそうに話だした。真琴と二人でエジプトのピラミッドに行ったとか、トレビの泉や、モアイ像やら、なんたらかんたら。
しまいには、俺も酔いが冷め土産噺に乗りまくっていた。
「なあ、ホントにピサの斜塔は斜めなのか? 前から気になってたんだよ」
玲児は身を乗りだし、小さな声で何かを言った。聴こえないから俺も身を乗りだし、話しを聞こうとしたら、ヤツはあろう事か、キスをしてきやがった!
「元気になって良かったね、シュン。ショーゴは大丈夫……必ずアンタの所へ帰ってくるよ」
呆気に取られてる俺を残し、キス魔は長くて綺麗な手を振り帰って行った――
「あっ、 また聞きそびれた! ヤツと章吾の関係を! 」
*―*―*
「おい! 啓介兄! ケーキを食わせろ! 」
そろそろ店仕舞いをしようと看板の電気を消しに店の外に出たら、瞬の奴がやって来て絡んできた。
「生憎、酒飲みに食わせるケーキなんざ無いな」
店の中に入りスコッチをロックで出し、煙草に火を着けた。
「なあ、瞬よ。今日は俺も付き合うから飲もうぜ」
瞬の奴は黙って下を向いて泣いていた。まったく、昔と変わらねえな……絶対に泣き顔は見せやがらねえ。負けず嫌いの坊主だ。
「なあ……啓介兄よ……ヤッパリ駄目なんかなあ?……」
やっぱりコイツはアホだ。自分の事になると、ちっとも見えてない。だからこそ瞬なんだが。
「お前が駄目だと思った瞬間からもう駄目なんだよ! 情けねえな瞬よ……もう頑張れないのか? 」
下を向いたままだった瞬が、俺を睨む様に見つめる。俺は奴の頭をグシャグシャにしてやった。髪を触られるだけでも嫌うのにだ。
「なんてな、大丈夫だぜ啓介兄。負けねえから俺……」
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