月三物語
【復興】
「竜先生、今日のお稽古はどうでしたでしょうか? 」
お弟子さんの一人が声をかけて来た。確か三上と言ったか……
伯父の支援を受けて、家元復興のための第一歩として教室を開いた。少しづつだが、評判を聞き付けてお弟子さんも集まって来ている。
「大分良くなりましたよ。活け花は、これでなければならないと決まっては無いですから、三上さんは三上さんだけの個性を活かせば良いのです」
随分熱心なお弟子さんだな、と思いながらも熱く語ってしまう。昔は義務でしかなく、嫌々してたこの仕事が楽しくなり始めていた。
涼は本当に、活け花が好きだったな……楽しんでやってる人間に、敵う訳がなかったんだ。
「竜君、調子はどうだね? 」
伯父がたまに様子を見にやってくる。後ろ立てになってくれた以上、気になるのだろう。
「次の披露会には、テレビを呼んでおいたよ。竜君には頑張って美月流を盛り立ててくれないとな」
僕は頷き、心に決めていた。涼の流儀をやろうと。何処かで見ている涼のために――
*―*―*
街はすっかり冬の準備に忙しく、私の勤める花屋にも師走の慌ただしさが迫っていた。
あの時、聡さんは私が困っていると思って言ったのだった――
「な、なんてな。気にしないで良いからね、辞めたりしないよね? 」
私は実際、辞めなくてはと思っていたから、聡さんの好意に甘えてこの仕事を続けていた。他の仕事は気が進まなかったから、花に携わる仕事をして居たかった。
「へえ、涼ちゃん見てご覧よ。活け花の披露会場に中継だってさ」
聡さんに言われ、鋏を置いてテレビの画面を見た。
そこに映っていたのは……
「……りゅう……」
竜がいた――昔の私みたいに、ロックを掛けて舞っている。
その姿は綺麗で力強く、見る人の目を釘付けにするほどに……
「涼ちゃん! 凄いなあ、初めて見たよ、こう云うの……涼…ちゃん? どうした? 」
私は目を反らさずに真っ直ぐ前を見ていた。ただ、画面の中の竜を……やがて、目の前がぼやけ竜が見えなくなる――
竜……頑張ったんだね。家元を復興出来たのよね? おめでとう竜――
見付けた――とうとう、見付けたわ! わたしは口の端を上げ乾いた笑い声を出した……
ただ、ただ、おかしくて仕方がない。だって目の前に二人も居るじゃ無いの?
復讐の相手が――
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