月三物語
【涙】
「坊主、名前は? 」
目の前の子供は五歳ぐらいか、勝ち気な目をして大分きかなそうだ。母親である遊木の背中に隠れ顔だけ出してこっちを窺っている。
「ちゃんと名前を言わないと駄目でしょう? 」
遊木に言われ、渋々こっちまで来て言った。
「ぼくは、ぼうずじゃないやい。ちゃんと名前があるんだ! 浩木(こうき)って言う名前が、とうちゃんと、かあちゃんから1つづつとった……ちょっとおじちゃん。どうしたんだよ」
俺は、坊主を抱きしめた。今まで抱いてやれなかった分も……俺の子供を……
*―*―*
「月島に子供が? 」
瞬は驚いていた。それは私も遊木を《視た》時は驚いたさ。遊木は病気の事だけ私に告白したけど、遊木の手に触れた瞬間に月島への想いが流れて来て、子供の存在を知ったんだ……
「月島が刑事に成り立ての頃、遊木と出会った。涼の姿をさ迷い求めている時に……」
「先輩〜飲みすぎですよお〜」
「煩い! お前は帰れ! 」
目の前の先輩は荒れていた。自分でも理由も分からずに。そんな先輩をほっとけなかった。
「先輩、ちゃんと歩いて下さい。鍵は何処です? 」
先輩の部屋まで送って帰るつもりだった。でも……
「涼……還ってくれ……愛してるんだ……」
私をその、涼という人と間違えて抱きしめてきた。抵抗はしょうと思えば出来たのだけど……
先輩が好きだったから……たとえ私の名を呼ばずに涼と呼んでも良いと思って……
二ヶ月たって生理が止まり、妊娠したと分かった時でも、下ろそうなどとは考えもしなかった。
ただ、嬉しくて、楽しみでしょうがなかった、先輩の子供……
浩司と私の赤ちゃん。
*―*―*
「浩木、お前のお父さんなのよ。先輩、浩木です……黙って産んですみま……」
先輩が私を抱きしめる……『遊木』と私の名を呼ぶ……私は何も言えない。ただ、涙が止まらない……
先輩……私も『愛してます』
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