月三物語
【切望】
「竜くん、君の言いたい事は分かったがね。今更、家元を復興して何になるのだ……もうお弟子さんも他の流派に変えてしまってるのだよ」
「伯父さん、僕達のせいで家元が衰退していくのは……必ず、元の様にしますから! お願いします! 協力してください! 」
伯父さん始め、一族皆揃った席で僕は頭を下げた。涼の居場所を守るため、どんな事だってするつもりだった。父だって本当はそう望んでいる筈……
伯父さんは溜め息をつき、僕を真っ直ぐに見て口を開いた。
「分かった! 君がそこまでの覚悟があるなら……もう一度だけ、頑張ってみよう。……竜くん大人になったな……頼んだぞ美月流を! 」
僕は精一杯の感謝を込め力強く頷いた。
涼……待っててくれ。必ず家元を復興して迎えに行くよ……
*―*―*
「涼ちゃん、もう上がって良いよ」
店長に言われ、鋏みを置きリースを眺めた。あと少しなんだけどな。腕を伸ばし全体を見てると、店長が笑って見てる。
「本当に涼ちゃんは好きなんだな花が。見てると良く分かるよ」
「だって小さい頃からの付き合いですから」
そう、いつでも花は私の周りにあった――竜も。
竜は元気にしてるだろうか? ずっと一緒に育ってきた、私の弟。
「涼ちゃん……そんな悲しい顔しないでさあ、ご飯でも食べに行く? 」
この花屋に勤めるようになって三ヶ月が過ぎた。店舗は二つあって二号店であるここは、オーナーの息子さんが任されている。
聡(さとる)さんと言って明るくて優しい人。
「いえ、今日は帰ります」
そう言ったら聡さんは、真面目な顔になって言ったのだ。
「涼ちゃん好きだ。初めて会った時から……結婚して欲しい」
突然の告白とプロポーズに、私は茫然と立ち尽くしていた。
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