月三物語 【決心】 僕は父と向き合い話した。今までの事、涼の話を―― 「父さん、僕はやるよ……」 父は黙って話を聞いていた。そして立ち上がり奥の部屋に行き、戻ってくると僕に渡す。 「父さん、これは? 」 「使いなさい……お前の入院費で大分少なくなってしまったが、屋敷を売った残りだ……」 いつかは言い出すのではないかと思っていたと言う父に、僕は笑って言った。 「ありがとう父さん。必ず家元復興するから……」 それが、僕の生きていく道だと思うから―― *―*―* 「遊木! 早くしろ! 」 先輩に呼ばれ私は慌てて、書きかけの報告書を閉じ走って追い付き話を聞く。 「事件ですか? 先輩! 」 「最近、世間を騒がせてる泥棒がいるのは知ってるだろ? 」 先輩が言ってるのは、義賊を気取った泥棒で『Black・パンサー』と言う名で、予告状を送りつけ警察を翻弄させている。 「でも、私達は……」 「応援だ、俺達の管轄で事件を未然に防げとの警部のお達しだ」 走って駐車場まで向かう私達に後ろから声が掛けられた。 「まって! 月島、ちょっと!」 立ち止まり、声の主を待つ。高瀬真弥警部だ。 「月島、遊木よろしくね」 ニッコリ笑って手を差し出した真弥先輩は私の憧れの人だ。女で先輩と同期なのに、警部にまで出世している。 「Blackパンサーは手強いわよ。気を引き締めて頑張って頂戴」 私は敬礼したが、先輩は分かったと手をひらひらと振り歩いて行く。 「あっ、待って下さいよ〜」 駐車場に着くと先輩がエンジンをかけ待っていた。 「先輩〜ヒドイですよ〜置いて行くなんて」 先輩は私の頭をクシャリとかき回して言った。 「真弥の話しを聞いてたら、泥棒に逃げられるだろ? それに……」 お前をからかうのは、面白いからな。と先輩が笑った。 先輩の笑った顔を見るのは、久しぶりで私は胸が温かくなって、泣きたくなる。 いつも一緒にいるから、隠してるけど私は知ってる。先輩の重大な秘密を…… 赤月さんに打ち明けて、本当に良かったのだろうか? 不安が私の心に重く乗しかかり嫌な予感に私は震えていた―― [前頁][次頁] [戻る] |